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ついに宮城県「水道民営化」決定。値上げ・水質悪化・破綻リスクなど住民の不安をスルーしての可決に批判の声。海外では「再公営化」の動き顕著

今日5日、宮城県において水道事業の運営権を民間に売却する「みやぎ型管理運営方式」が、県議会本会議で可決。日本国内の自治体で初めて、上水道が民営化されることになった。

「みやぎ型管理運営方式」とは、上水道・下水道・工業用水道という3つの水道事業をひとつにまとめて、20年間の運営権を民間企業に売却しようというもの。

各社の報道によると、本会議に先んじて2日に行われた県議会の建設企業委員会では、野党会派の委員から水質の安全性を担保できるのかなどを疑問視する意見が飛び出した。また民営化に反対する市民団体からは、もっと時間をかけて県民や受水市町村の疑問・不安を解消するような方向で進めて欲しいとの声も。委員会での採決も賛成と反対が同数と、まさに意見が二分する結果となったが、委員長の裁決によって可決となったという。

各自治体が期待する「水道民営化」

現行の水道インフラは高度成長期に作られたものが多いということで、全国で水道施設の老朽化が叫ばれる昨今。また人口減によって、水道料金収入も減少していることも、各自治体にとっては悩みのタネとなっている。

そのような状況下で、横浜市ではこの7月から水道料金を平均で12%ほど値上げ。埼玉・川口市では、すでに2021年1月から平均25%値上げしているなど、各地の自治体で水道料金値上げの動きが広がっていて、2018年度では1,247の事業者のうち、43の事業者が水道料金を引き上げているとのことだ。

このように水道事業がある種の「お荷物」となっていくなか、2018年には水道法が一部改正。各地自体が水道施設運営権を設定して、民間企業による水道施設運営等の事業を行うことが可能に。いわゆる「水道民営化」が法的にも可能になったのだ。

水道民営化によるメリットとして挙げられるのが、民間企業の持つ独自の技術やノウハウを取り入れた結果、水道料金が安くなるとされる点。また効率的な運営が実現できれば、水道事業を利用したさまざまなサービスの展開、また潤沢な資金による施設の改善も期待できるという。

今回の宮城県のケースでは、すでに今年4月の段階で水処理大手の「メタウォーター」を中核とした企業団との間で基本協定書を締結。県はこれにより、20年間で水道事業にかかる経費を最大546億円削減できると試算している。

海外は「再公営化」の動きもみられる

このようにメリットを上げていくと、いいことづくめのような気がする「水道民営化」だが、日本に先んじて民営化が行われていた海外では、逆に「再公営化」の動きも目立つという。

例えばパリでは、1985年から水道民営化が始まったものの、その後の2008年までに水道料金が174%増となったという。後の調査によると、民営化後に業務を担った企業の経営が不透明で、正確な情報が行政や市民に開示されず、また利益が過少報告されていたことも判明し、2010年には再び水道事業が公営化されたそうだ。

このパリ市のように、一度は水道事業を民営化しつつも、後に再公営化した事業体は、2000年から2017年の間に267事例あるとのこと。とはいえ再公営化した際には、譲渡契約の途中で行なった際には違約金が発生するなど、結構なコストがかかることもあるという。

そのため今回の件に関しても、地元・宮城県の住民からは「拙速な議論ではないか」と、再考を求める意見があがる。県民からは上記の値上げ以外にも、民間企業なだけあり経営の破綻のリスクもある点、さらに水質の劣化を懸念する声も出ているなど、不安はまったく払拭されていないといった状況。いっぽうで、今回の件やその問題点に関して、現状多くの人に知れ渡っているかというと、決してそうとは言い難く、そんな現状を焦るような声も見られる。

より深い議論を求める住民サイドと、経費削減を急ぐ自治体とのすれ違いが起こっている「水道民営化」。今回、宮城県がその先鞭をつける形となったが、決してこれは対岸の火事ではなく、「水道施設の老朽化」「人口減」がその理由であるなら、今後ほかの多くの自治体で同様の問題が続発することは、火を見るよりも明らかだろう。

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