地政学的リスクが高い中国
言うまでもなく、西側先進国からすると中国やロシアは地政学的リスクが高い国である。
2000年代以降の「幸福なグローバリズム」の時代には、そのリスクはそれほど意識されなかったし、ほとんど顕在化しなかった。
しかし中国やロシアのような権威主義の政治体制は、本来自由な経済活動とは極めて相性が悪いし、必ず政治体制を優先するか経済を優先するかというジレンマに陥る。
2010年代後半に、すでに「幸福なグローバリズム」は終焉を迎えようとしていたが、ウクライナ危機で決定的になった。
以前の「幸福なグローバリズム」の時代に戻ることは、少なくとも当面はありえない。中国から生産拠点を移すチャイナフライトは、今後おそらく加速するだろう。
人件費が高騰する中国
地政学的リスクの回避のほかにも、チャイナフライトが加速する要因はある。中国の人件費の高騰である。
もともと中国に生産拠点を移す最大のメリットは、人件費が安いということと、膨大な人口がいることで労働者が確保しやすいという点にあった。
人件費については、上海や深センなどの主要都市での労働者の最低賃金を見ると、2010年あたりと比べると、現在は概ね倍ぐらいの水準になっている。
その上に習近平主席の共同富裕政策によって、2021年あたりから各省で最低賃金を引き上げる動きが顕著になっている。
また中国は急速に経済発展したことで、若者が製造業などの3K(キツい、汚い、危険)労働を避けるようになっている。
中国では農民工(農村から都市に出稼ぎに来る労働者)が工場労働者の大きな供給元になっているが、2020年に農民工の総数は初めて減少した。
中国は、生産拠点として安い労働力を大量に獲得できる魅力的な国では徐々になくなりつつあるのである。
今後は高齢化が急速に進むことが予想されており、より環境が厳しくなることは間違いない。