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バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(1)

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下記のとおり修正します。
(誤)
(正)

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。

駐日インド大使が対中強硬的発言をしているが、インド外相は王毅外相が議長を務めるBRICS外相会議で対中露友好姿勢を表明。対米非難が目立つ。そこへアメリカが大型の対インド軍事支援をすることが判明した。

◆産経新聞が単独取材したバルマ駐日インド大使の発言とその解釈
5月19日、産経新聞はバルマ駐日インド大使を単独取材し、<バルマ駐日インド大使 中国念頭に「覇権主義に反対」>(※2)という見出しで報道した。それによればバルマ大使は概ね以下のように述べたという。

1. 海洋進出を強める中国を念頭に「覇権主義的な動きには反対だ」。

2.日米豪印4ヵ国協力枠組みクアッドは「軍事同盟ではなく、さまざまな問題を協議する場だ」。

3.台湾有事が発生した場合の対応を考えるより、有事が起きないようにすることが重要だ。

4.ロシア制裁に関して「インドは独立した立場を取っている。経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」と説明。外交と対話による停戦を求めていくべき。(引用ここまで)

これらに関して筆者なりの解釈を以下に示したい。

「1」に関して:「海洋進出を強める中国を念頭に」という言葉は、産経新聞の記者の方が位置付けた言葉だろうと考えられ、インドとしては「中国であれアメリカであれ、覇権主義的動きには反対」という立場なのではないかだろうか。

「2」に関して:インドが軍事的に最も仲が良い国はロシアなので、クワッドが軍事同盟的性格を持っているなら、ロシアと仲が良い中国に対抗するようなグループには入りたくないという意味あいを持つことになろう。

「3」に関して:5月12日のコラム<ウクライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?—米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!>(※3)に書いたように、アメリカ政府は台湾関連のウェブサイトから、ひそやかに「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾独立を支持しない」という文言を削除している。中国の逆鱗に触れる行動をしているのだ。つまり「台湾有事を発生させるための仕掛け」を始めている。したがって、バルマ大使の「有事が起きないようにする」という言葉はアメリカに向けて言ったものと推測することができる。

「4」に関して:インドはロシアに対して制裁するどころか、武器はソ連時代からすべてソ連から、そしてソ連崩壊後もロシアから購入してきたので、対ロシア制裁など、インドにとってはとんでもない話だ。アメリカはそれを崩そうと、何年も前から、アメリカの武器を購入し、アメリカ製軍事システムの中に入るようインドを説得してきたが、なかなか実現しなかった(たとえば2007年には民主党のリーバーマン上院議員や米太平洋軍司令官のキーティングがインドを訪問してインドを説得し、同年9月に、日米印豪およびシンガポールとのっ合同海軍演習にせいこうしているがアメリカ製兵器購入にまでは至っていない)。

それでも2019年2月15日にトランプ政権で国家安全保障問題担当だったボルトン補佐官がインドのカウンターパートに電話して「インドがパキスタンに一方的に侵攻しても、国連安保理でインドの側に立って、アメリカが拒否権を使ってあげるので、アメリカ製の武器を購入しろ」と執拗に迫って、遂にインドはやむなく一回だけ、アメリカから武器を購入したことはある(詳細は拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』p.188‐192「露印は軍事的緊密事」)。

しかし、同書のp.191に書いたように、ロシアのウクライナ侵略が始まったあと、アメリカが天然ガスや石油などのエネルギー資源に関して徹底したロシア制裁を呼びかける中、インドはプーチンと仲良く話し合い、ロシアからの原油購入などを増やし、おまけにロシアのルーブルとインドのルピーでの取引を進めている。

バルマ大使の「インドは独立した立場を取っている」は、まさにこういった「アメリカに同調しない、独立した立場」を指しているとしか解釈のしようがない。

またバルマ大使の「経済制裁は一般国民に苦痛を与えることになる」という言葉は「アメリカ批難」以外の何ものでもない。

アメリカはロシアや中国だけでなく、自分の気に入らない国にはすぐに経済制裁を科す。なぜ国連を中心とした国際秩序を、アメリカだけは守らなくていいのか、なぜアメリカだけは自国の利益のために勝手に相手国に制裁を科して、世界経済のサプライチェーンを乱し、地球上のすべての人々に災禍をもたらしても許されるのか。それは誰もが素直に疑問に思うところだろう。

それは「ドル基軸通貨体制」があるからで、なぜそれが可能かと言えば「ニューヨーク・ウォール街での業務を必須の条件とする大手銀行に、米国の意向に逆らえば銀行の免許没収という脅しを突き付けているからだ」と、杉田弘毅氏が『アメリカの制裁外交』で書いておられる。

またバルマ大使は「外交と対話による停戦を求めていくべき」と言っているが、これは習近平も言い続けている言葉で、習近平の場合は2月25日にプーチンに直接電話で伝えている。

つまり、インドの姿勢は中国と同じなのだ。

逆に「ウクライナ戦争を停戦させたくない」と思っているのはアメリカであることを、世界は知っている。それは4月24日のコラム<「いくつかのNATO国がウクライナ戦争継続を望んでいる」と、停戦仲介国トルコ外相>(※4)に書いた通りで、事実その翌日の25日にアメリカのオースティン国防長官がウクライナを訪問した後、ポーランドにおける記者会見で「この戦争はロシアが二度と立ち上がれなくなるのを見届けるまで続ける」という趣旨のことを言っている。

ということは、バルマ大使のこと言葉も、深く考察すれば、「アメリカを非難した言葉」と解釈することができるのではないだろうか。


「バイデン大統領は金でインドの心を買えるか? 駐日インド大使の対中強硬発言とインドの対中露友好(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: 代表撮影/ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://news.yahoo.co.jp/articles/19bbeada4948c61542ab7668556f6a69eb8caac1
(※3)https://grici.or.jp/3125
(※4)https://grici.or.jp/3082



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