バイデン政権の意向に配慮
最大の要素はバイデン政権の意向です。
支持率が低下する政権にとって、「インフレ抑制」が最大の関心であることはFRBにも伝えられています。しかも、24年の大統領選を考えれば、政権は引き締めによる景気の悪化は極力前倒しし、24年は金融緩和の下で景気も株価も順調に回復に向かう姿を期待しています。
当面の景気に配慮して徐々に引き締め、結果的に24年まで景気悪化を引きずるのは最悪です。
またCFR系のバイデン政権は、ネオコンと異なり、軍事力ではなく経済面でロシア・中国を叩きたい思いがあります。
その点、ドル金利高、ドル高はロシア経済や中国経済にとって大きな負担となります。つまり、FRBによる急激な引き締めは、金利ドルの上昇を通じて、両国の経済を痛めつける武器にもなります。
FRBの利益を圧迫
FRBが8月17日に公開した7月のFOMC議事要旨には、FRBがこのまま利上げを続けると、FRBの収益が赤字に転落するリスクがあることを示唆しています。
FRBが金融引き締めによって収益が悪化するルートは2つあります。
1つは民間金融機関への付利金利の負担です。中央銀行が金融引き締めのために利上げをする場合、通常は売りオペなどで資金を吸い揚げ、金融市場の資金需給をタイトにすることで利上げ誘導をします。
ところが、現在のFRB(ほかの中銀も同様)は、巨大な資産を保有し、その代わり金が市場に大量の流動性を与えています。そこで政策金利を上げたいと言っても、金利は上がりません。
そこでFRBと取引のある金融機関がFRBに預ける準備預金に金利をつけ、この付利金利を引き上げることによって、金利裁定を通じて政策金利を上げることになります。
つまり、FRBが利上げのたびに民間金融機関に高い金利を払うことになり、その金利コストが膨大になります。
FRBは国債やMBS(住宅ローン担保債券)を保有し、その金利収入もありますが、現在2.25-2.5%レンジのFF金利を3%以上にすると、金利収入と支払金利が逆転する「逆ザヤ」になると警告しています。9月の会合で0.75%利上げすれば、この逆ザヤになります。
さらに、FRBは9兆ドル近い債券を保有していましたが、その保有分を6月から満期到来分から期落ちの形で資産圧縮をしています。それでも、まだ保有している巨額の債券は、これまでの長期金利上昇によって、大きな含み損を抱えています。
これは市場で売却しなければ損は実現しませんが、含み損が大きくなれば、FRBや米国、ひいてはドルの信認に影響が及びます。