世界に見る“アベ化”の兆候~ドナルド・トランプの場合
世界は “アベ化” している。
山口教授に言わせれば、日本はアベ化の先頭を走っているという。そして、2番手以降の走者としてアメリカのドナルド・トランプ、フランスの極右政党・国民戦線を挙げ、あたかも“アベ化三銃士”とでも言いたげである。
確かにドナルド・トランプは分かりやすく、ここで説明する必要性を感じないのだが、それでもトランプについては「計算高い男」というが当初からの評価であり、共和党の大統領候補選出が現実的になったここにきて、その計算高さを徐々に見せつけ始めている。
プロンプターを使っての“まっとうな”演説は、それだけで話題になったし(トランプも成長したもんだ、といったように)、政策も予定調和的に現実味を帯びてきている。
そもそも、トランプが大富豪であるという、一歩間違えれば貧困層からひんしゅくを買いかねない状況(現にヒラリーはひんしゅくを買っているようだが)を上手く政治的にコントロールできる時点で、彼に一定の能力はあると見なすべきなのだ。
選挙戦を自己資金で賄うことでしがらみを払拭し、自由闊達に戦いを展開したのはジョン・F・ケネディ以来ではなかろうか。
当たり前だが、何もトランプがケネディの再来と言いたいわけではない。それにしてもティーパーティー(茶会)と結託したクルーズはブッシュのバージョンアップ版にしか見えなかったし、ルビオに至っては軍産複合体の阿呆な使いパシリでしかなかったというのは情けない限りだ。
そんな中で問題発言を撒き散らしたトランプであったが、それは彼の自由さというより「自在さ」の象徴でもある。それをトランプは大人の戦略で「もう一つのトランプ像」を作り上げたというわけだ。
世界に見る“アベ化”の兆候~フランス国民戦線の場合
フランスの極右政党、国民戦線(フロン・ナショナル:FN)の場合になると、急に事態は複雑になる。山口教授はコラムで、このフロン・ナショナルの幹部が日本の新聞のインタ
ビューにこう答えたと書いている──「自民党こそ自分たちの手本」であると。
そうであれば、国民戦線は自民党の後方を掛けゆく2番手に見えなくもない。しかし、これは単なるリップ・サービスではないにせよ、フランス人特有の理屈っぽさからくるアイロニーだと思われる。
現代フランスを代表する極右政党である国民戦線が設立されたのは1972年のことだが、それでもこの党が国内外から注目されるようになったのは、1980年代も終わろうとしている頃だった。
1988年の大統領選では、当時の党首ジャン=マリ・ル・ペンが14.4%の票を獲得、2012年の大統領選ではジャン=マリの三女、マリーヌ・ル・ペンの得票率は17.9%であった。フランス社会で確実に国民戦線が浸透しているに違いないと思われるものの、急進的な躍進とは言い難い。
党首以下、幹部連も過激な発言を繰り返す国民戦線ではあるが、意外なことに極右政党としての動向は目立たない場面もあり、むしろ見落とされてきた側面もある。この間、反ユダヤ主義である父親と、穏健路線を模索する娘との間に確執が生じ、現在の党首マリーヌ・ル・ペンは、初代党首であったジャン=マリ・ル・ペンを党から除名するといった事件も起きた。
国民戦線を支持するのは、主に労働者階層であると言われており、地域的にはパリの北東部、そして南仏プロバンス地方である。つまり、フランス国境で「コの字型」を描くように支持者の密集が見て取れる。
この地政学的事実は極めて重要であると言える。というのも、このような地理的な配置は、フランス革命の時の革命勢力が跋扈した地域と見事に符合しているからだ。