消費者が自動車に求めるのは安全性と利便性
そもそもコンテンツであれば、スマートフォンやタブレットでも自動車に乗って楽しめるし、それを自動車のモニターに繋いで同乗者と一緒に楽しむのも技術的には容易であり、他社でも簡単に作れる機能である。
なぜ今さらモビリティ(自動車)自体をコンテンツ提供のデバイス化するというような発想が出てくるのか。
ソニーは、かつてウォークマンで世界を席巻したのに、スマートフォン分野でAppleなどに後れを取ったため、モビリティ分野で挽回しようという想いがそうさせたのではないだろうか?
想いを持つことは必要ではあるし、事業を進めるにあたって大切になることは否定しないが、想いが先行して消費者のニーズと乖離してしまうという事例を多く見てきた。
今回の『AFEELA』は消費者のニーズとかなり乖離しているのではないだろうか。
消費者が本質的に自動車に対して求めるのは、コンテンツを提供してくれるデバイスではなく、「自動車としての利便性と安全性」である。
本来その部分を今回の『AFEELA』の発表で消費者に訴えかけるべきであったと思うのだが、その部分の訴求はほとんど感じなかった。
なぜ日本メーカーは消費者向け事業が不得意になったのか?
SHMはソニーとホンダの折半出資ではあるが、今のところソニーが事業を主導しているように見える。
今回の『AFEELA』の発表は、消費者向け事業(BtoC事業)が不得意になった日本の家電メーカーを象徴している。
1990年代ぐらいまでは、日本の家電メーカーはBtoC事業で世界を席巻していたわけだが、2000年以降は負けが続いている(ゲーム機など一部では健闘してはいるが)。
特にスマホ分野では、消費者向け事業では惨敗したと言っていいだろう。
AppleはiPhoneで世界を席巻したが、ソニーは2010年代前半ぐらいまではXperiaブランドでスマホ分野でも奮闘していたが、現状では世界シェアは1%にも満たないと言われており、30%弱のシェアを有するAppleやSamsungとは大きな差がついてしまっている。
逆にソニーはスマホ用カメラ半導体(CMOS)の生産などで大きなシェアを持っており、事業者向け事業(BtoB事業)では大きな利益を出しているのではあるが。
事業の住み分けであり、あえてBtoC事業で勝負をかけなくても良いという意見もあるだろうが、ソニーをはじめとする日本の家電メーカーの多くは過去の成功体感が忘れられず、今回のSHMでのEV事業参入も「かつての栄光をもう一度」という想いがあるのだと思う。