fbpx

ローソン、ファミマ、セブンも全面敗北。ドライブスルーやAI店長も当たり前“中国メガコンビニ”の恐るべき進化=牧野武文

ドライブスルー型コンビニの拡大

しかし、易捷のプロジェクトチームは、まったく逆転の発想をしました。「一鍵加油」アプリに存在する隙間時間に着目をしたのです。ガソリンを入れるお客さんは、車を指定場所に停めて、アプリでガソリンを指定し、決済をすると、作業が終わるまでの数分間、車の中で待っています。この間、特にすることもないので、多くの人がスマホをいじっています。

そこでプロジェクトチームは、アプリの中から、目の前の易捷コンビニの商品を購入できるようにしたのです。購入をするとオンラインで決済ができ、すぐに易捷のスタッフが商品を持ってきてくれ、トランクに入れてくれます。買い物も車から下りることなくできるようにしたのです。

この「一鍵到車」サービスは、2019年12月に2つのガソリンスタンドでテスト営業を行い、2020年2月から北京地区の易捷で利用できるようになりました。

この時期に注目してください。まさに新型コロナの感染拡大期間とかぶっているのです。これが大きなヒットサービスとなりました。感染を不安に感じる人にとっては、車から下りることなく、注文した商品をトランクに入れてくれる。スタッフと接触をする必要もありません。易捷ではアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)と提携をして、生鮮食料品の販売も始めました。出がけにアプリから注文を入れておき、ガソリンスタンドに行き、到着したことをアプリで連絡すると、スタッフが商品をトランクに入れてくれます。

何より大きいのが、易捷がコンビニであるということを顧客が意識してくれたことです。それまではガソリンスタンドの売店という感覚でしたから、易捷に入ることもしなかった顧客たちが、コンビニ並みの商品を買えるということに気がつきました。

2019年9月からはカフェスタンド「易捷珈琲」の展開も始めています。中国のガソリンの種類は「92#」(レギュラー)、「95#」(欧米基準のレギュラー)、「98#」(ハイオク)の3種類ですが、易捷珈琲のメニューも92#(レギュラーブレンド)、95#(おすすめブレンド)、98#(スペシャルティコーヒー)の3種類を中心とするユニークな構成にしています。ドライブ中の休憩所としての役割も担うようになっています。

中国のガソリンスタンドは、将来性が非常に危ぶまれています。電気自動車(EV)を中心とした新エネルギー車の普及です。すでに上海などの大都市では、新車販売の50%以上が新エネルギー車になっています。市中の保有車両の割合としてはまだまだガソリン車が圧倒的に多いものの、今後、ガソリンスタンドのビジネスは先細りになっていくしかありません。

ガソリンスタンドが、そのまま充電ステーションに転換をしてもうまくは行きません。ガソリンは数分で給油ができるため、「これからガソリンを大量に消費する」場所に置くことで利用率があがります。具体的には高速道路やバイパスの入り口付近です。しかし、EVの場合は「バッテリーを消費した」場所にあるのが消費者にとっては都合がよくなります。具体的には高速道路のパーキングや、自宅付近、食事をする場所の近くです。ですでの、ガソリンスタンドをただ充電ステーションに転換をしても、多くの人が高速にくるまでに充電を済ませてくるので目の前を通り過ぎられてしまいます。

そこで、ガソリンスタンドは、給油以外のサービスに力を入れていくしかありません。例えば洗車サービスや点検サービスです。このようなサービスを受けている間にコンビニで休憩をしてもらったり、買い物をしてもらう。また、車でこれることからお酒の販売にも力を入れています。車でくれば持って帰る苦労がないからです。

ガソリンスタンドは、今後、自動車関連のサービスを提供しているコンビニへとゆっくりと変化をしていくことになります。

日系コンビニより5年進んでいた中国コンビニ

本当の意味で全国展開をしているコンビニが「美宜佳」(メイイージャー)です。元々は広東省東莞市から始まったスーパーですが、途中でコンビニ業態に転換をし、華南地区を中心に展開をしていましたが、現在では全国に拡大をしています。最近、2027年までに5万店舗に拡大する計画を発表し、名実ともに中国コンビニNo.1の座を狙っています。

1990年代に東莞市でスーパー「美佳」としてスタートしましたが、90年代の終わりにウォルマートやカルフールなどの大型外資系スーパーに太刀打ちができず、業績が悪化をし始めました。

そこで、美宜佳は日本と香港のコンビニの研究をし、店舗面積を小さくして、過密集中出店する戦略に切り替えます。それだけではありません。美宜佳の特徴は、最先端サービスをいち早く取り入れていくことなのです。

2007年にはEC「タオバオ」に出店をし、2010年には自社のEC「美宜佳生活館」を立ち上げています。コンビニの商品だけでなく、提携している小売業が販売している家電製品や日用品も購入できるというもので、2015年11月に日本のセブンイレブンが始めた「オムニ7」と非常によく似ています。美宜佳はセブンイレブンよりも5年早く同じことを始めているのです。

2010年当時はスマホ決済がじゅうぶんに普及をしていませんでした。そこで、ECで購入した商品を店舗に配送し、現金支払いによる店舗受け取りにも対応しました。

さらに2017年には周辺地域への宅配も始めています。美団(メイトワン)、ウーラマなどのデリバリーサービスも活用していますが、自社でも宅配スタッフを用意し、自力での宅配も行っています。これも、日本のセブンイレブンの宅配サービス「7NOW」が始まったのが2022年で、現在、関東地区と北海道、広島の一部での提供ですから、美宜佳の宅配はかなり早い時期に始まったことになります。すべての店舗ではありませんが、200都市2万店で宅配を提供しています。

美宜佳は地方都市にも出店しているコンビニですが、このようなサービスに関しては、都市コンビニよりも早く手がけています。これが美宜佳の大きな強みになっています。

Next: 黒字化まで25年かかったローソン

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー