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個人事業主を殺す「インボイス制度」なぜ導入?税理士・神田知宜氏に聞く“増税”との戦い方=鈴木傾城

110円のものを買ったら10円は消費税……じゃない?

鈴木:ところで、この免税事業者におけるインボイス制度の世間の捉え方の話になるのですが、「消費者は110円のものを買って10%の10円を消費税として払ったけれど、免税業者は預かっている消費税を自分のポケットに入れている。つまり消費者から預かった預かり金を納めてない」……。世間はそのように税金のことを考えていますよね。

神田:そうですね。「税金で得してるから益税」と言われています。「だからインボイス制度は益税問題が解消されるからいいじゃないか」と言うのがインボイス制度推進派の意見ですよね。

こないだ私の知り合いの社長が、ある会計ソフト会社主催のインボイスセミナーに参加したら、やっぱりそのことを強調していたらしいんですよ。「益税解消になるからこのインボイス制度が必要なのです」と。そして、「登録しないと取引先に迷惑がかかるから早く登録しなさいよ」と。この2点を強調していたらしいんですよ。

このことを説明するのは難しいのですが、「消費税の世界」があるとするじゃないですか。その中では登場人物は2種類です。「課税事業者」と「免税事業者」です。それ以外の登場人物はいません。つまり「消費者」は「消費税の世界」にいないということです。消費税法という法律にも「消費者」という言葉はひとことも出てきません。

鈴木:「消費税の世界」には消費者はいない?

神田:消費者が110円の商品を買ったら、「100円のものを買って10%分の10円を自分たちが払ってる」って思ってるけど、それは幻想なんです。消費者が払っているのは消費税ではなくて、ただの値段なんですよ。付けられた値段を払ってるだけの話です。

鈴木:「110円のコップを売った場合、そこに10円の消費税が入っているのではなく、さまざまな経費も利益も含まれて最終的に110円になっているわけで、値段の10%がバシッと消費税なわけではない」ということがよく説明されますね。でも、レシートとか請求書には値段が100円で10%が消費税で価格が110円と書いてあります。

神田:その10円の意味は、「値段110円の110分の10の金額が10円ですよ」と言う意味なんです。そういうふうにレシートに記載すれば意味が通ります。それなのに「消費税額10円」と書いてあるから、みんな「自分が消費税を払ってる」と思い込んでしまうんですよ。でもそうじゃない。

消費税は消費者に課税されているわけではなく、事業者に課税される税金なのです。消費税法という法律の条文をみても、消費者が消費税を払う、とはどこにも書いてありません。裁判でも10円は消費税額ではなく単なる値段の一部であるという判決が出ています。にもかかわらず、10円を消費税のように書けというルールになっているんですよ。

「消費者が払った」ということにした方が導入しやすかった

鈴木:あのレシートに書いている「10%が消費税」というのは、法律で「そういうふうに書け」と消費税法で命じているんですか?

神田:消費税法第63条には『消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない』、つまり「総額表示を税込で書け」というように規定されていて、「細かくこういう書き方にしろ」と言うのは、通達じゃなかったかな。国税庁が現場の税務署とかに「こうしなさい」という通達を出していて、そこで細かな記述の仕方とかはあったような気がしますね。

鈴木:そんな通達をするから、消費者はみんな自分が10%の消費税を払っているんだと思うわけですよね。でも、そうじゃない。だけど、そうじゃないというのを理解できないで誤解している人がいっぱいいるわけです。自分が10%払っているんだ、と。

神田:はい。消費税を導入するときに、やっぱり「消費者が払った」ということにした方が導入しやすかったからということのようです。だから、消費税は嘘から始まってるわけですよ。この嘘をつき通し続けるために、ずっとそうやってやってるんじゃないですかね。表示の仕方も、レシートも。

鈴木:今は国民もすっかり洗脳されて「消費税は消費者である自分が払っている。それを免税業者は預かり自分のポケットに入れている。免税業者は悪い奴だ」という印象になっていますね。

神田:洗脳されてるんですよね。だから洗脳されてる人に、正しいことを言ってもなかなか伝わりにくい。消費税に限らず。でも、中には正しい説明をすると、すぐに理解してくれる人もいるんですよね。かなり少数ですが。でも、少数だったんだけれども、理解してくれている人がけっこう増えてきているような気はします。

鈴木:それは「STOP!インボイス」などの運動の成果もありますか?

神田:そうですね。あと『三橋TV』とかも影響は大きかったかもしれません。このチャンネル登録者は40万人以上いるんですが、これ見て目が覚めたっていう人も多いです。

鈴木:安藤ひろし先生のチャンネルでもインボイス制度の正しい説明をされていますね。ところが、「インボイス制度は益税解消になるからいい」という説明をしているYouTuberもいます。

神田:某人気ユーチューバーがインボイス制度の解説動画を2本公開していたのですが、その動画は「益税を解消するためにインボイス制度があるのです」という内容だったので、その内容は明らかに間違いでした。

そこでコメント欄を見てみたら、「消費税は預かり金ではありませんよ。益税はありませんよ。間違っていますよ」というコメントがたくさんあったので「正しく理解している人がずいぶん増えてきている」と感じました。そしてなんと先日その2本の動画が非公開になりました。間違いに気付いたのかもしれませんね。いいことだと思います。正しい理解が広がっていくこの勢いはどんどん増していくと思います。

だから、預かり金だと思い込んでいる人も、いろんなきっかけで気付いていくのだと思います。

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