免税事業者だけではなく課税事業者もデメリットだらけ
鈴木:インボイスは10月1日からの予定ですよね。あと半年ぐらいです。この期間に理解してくれる人が増えたら、インボイスの登録を見合わせる人も増えて、この制度が延期ないしは廃止される可能性もありますか?
神田:個人的な感覚でしかないんですけど……私は感覚の人間なんで(笑)、普通に考えたら、この制度は導入されないと思うんですよ。この調子でいったら延期になってもおかしくないんじゃないかな、とは思っています。
やっぱり登録してしまった事業者が何も分からずに登録してるというのがあるので、きちんとそのメリットとデメリットの内容を伝えていかないといけないと思うんですよ。ところが誰も伝えない。税務署も全然そういうところは周知しないし、テレビや新聞でも何も言わない。
鈴木:実質的に税金の負担が増えるので詳しく言えないですね。
神田:免税事業者だけではなく課税事業者もインボイス登録してもメリットはなくて、デメリットだらけになる。やっぱりそのデメリットをしっかり伝えた上で、登録する登録しないの判断を社長が下す必要があります。そこはきちんと情報提供しないといけませんよね。
鈴木:税務署から「やってください」と圧力がかかって、会計ソフトの会社にも「やりましょう」と話をされたら、日本人は同調圧力を感じてやってしまいます。
神田:やっちゃいますよね。事業者が本当に分かってやっていればまだいいけど、ほとんどの人が分からずにしてるから問題なんですよ。免税事業者は、登録したら申告義務も発生するし、納税義務も発生するし、インボイス(請求書や領収書)と帳簿の保存義務も発生するし、すごく大変になるんですよね。それを自分でできるかって言ったら、たぶんそういう事業者は自分で計算とか申告書作成とかもできないだろうし、それで税理士に頼もうかと言ったところで、頼めるほど金銭的な余裕もないだろうし……。行き詰まると思います。
鈴木:最悪ですね。
神田:仮にそれが何年か溜まっていったとするじゃないですか。それで税務署が来たら、もう払えないぐらいの金額まで税金が溜まっているかもしれない。そういうことが、やっぱり起きてくると思います。昨日も税理士の集会が国会であったのですが、このようなことを心配している税理士がいました。
鈴木:積もり積もって税務調査が来た時に「全部払え」って言われても払えません。そうすると、どうなるんですか?
神田:今度は滞納問題が発生するわけです。消費税はただでさえ滞納が多いんです。すべての税金のうち、滞納額の半分ぐらいが消費税なんですよ。
鈴木:そうなんですか!
神田:それだけ消費税は問題のある税制であるということです。消費税は赤字でも払わないといけないのです。売上より経費が多ければ赤字ですよね。それでも消費税は払えとなります。でも、赤字だから払いたくてもお金がないから払えない。払いたくない云々の前に、払えないんですよ。
鈴木:それはマズいですね。
インボイスが始まると大企業も自分たちの首が絞まる?
神田:消費税は制度設計上、無理があるんです。そのため、税金の仕組みからして間違っていると言われています。
鈴木:間違っているにもかかわらず、今度はインボイス制度で免税業者から根こそぎ持っていくわけですよね。
神田:そうですね。だから所得の低い層が軒並み廃業していくようなイメージしかないんですけどね。そうすると、結局その現場で仕事してる人がいなくなっちゃうわけですよ。仕事を発注する側も仕入れ先がなくなるから、事業がぎゅうって縮小してしまいます。
鈴木:要するにインボイスが始まると大企業も自分たちの首が絞まるんですよね。
神田:はい。現場がストップしたりする可能性が出てきますよね。昨日、配送業者が「インボイスが導入されたら物流も止まりますよ」言っていました。特に、Amazonの配達やウーバーイーツのような仕事をしている人もそうですね。インボイスに対応できないから。
鈴木:物流が止まってしまう……。
神田:物流は止まるし、大工さんも対応できなくなって家も建たなくなります。農家の廃業も増えるだろうからスーパーや直売所に野菜がなくなる、あるいはあったとしてもとても高価になっている可能性はあります。
鈴木:いま俳優さんとか声優さんがものすごく反対してますけど、あれもそういう層ですね、
神田:はい。アンケートを取ったら、4分の1くらいが「廃業する」というアンケート結果が出ています。そのアンケートは声優・アニメーター・演劇家・漫画家の4団体で取ったらしいのですが、4団体どこも同じような数字になったらしいんですね。だから、芸能・文化が廃れるのは明らかです。
鈴木:日本の大切な分野なのに潰されてしまうわけですか……。
神田:あと、作品のクオリティも絶対下がると言ってました。それこそ廃業する人が増えたら山の裾野がなくなるので、山が小さくなる。クリエイターの人たちは、すごく心配していました。直撃ですよね、文化芸能は……。