fbpx

凋落していくドイツ。なぜドイツはこうなってしまったのか、川口マーン惠美さんに聞く=鈴木傾城

『ドイツのための選択肢』が最大の保守勢力として機能

鈴木:今、こうした現状を打破する保守政党として『ドイツのための選択肢(AfD=アーエフデー)』がありますね。

川口:はい。今のドイツは脱原発・脱産業になっちゃっていますから、産業国を取り戻すための勢力として『ドイツのための選択肢』があります。私は以前から注目していて、よく取り上げていますけれど、現在の野党は、結局、『ドイツのための選択肢』だけなんですよ。保守であったはずの『キリスト教民主同盟』がもう完璧に左に傾いてますから。

鈴木:本来は保守であった『キリスト教民主同盟』は、左翼に乗っ取られたってことですか?

川口:そうですね。メルケル政権16年のうち、12年は社民党と連立していて、何の問題もなく、さらにその頃から『緑の党』とも思想が同化して、言ってることがみんな同じになってしまいました。原発を止めたのだってメルケル政権ですから。ただ、党内の全員みんな左傾したわけではなくて、この頃、ずっと悶々としていたグループがようやく声を上げ始めました。というか、その声がちょっと外にも聞こえ始めました。

鈴木:ちょっと、ですか。そうなったら『ドイツのための選択肢』が保守として一番ちゃんとした組織だということですね。

川口:はい。すべての党が一致団結して、『ドイツのための選択肢』を極右の党として潰そうとしており、メディアもそれを全面的に応援しているので、国民は、この党は危険だと思っていますが、では、どんなことを主張しているのかというのを知っている人はあまりいません。報道されないからです。

たとえば、「難民というのは、ちゃんと本当に困ってる人を審査して入れるべきであって、誰でもようこそみたいなのは国境防衛という国家の義務の放棄だ」と、最初から言ってたのが、『ドイツのための選択肢』です。

それから、「風車なんか建てたって電力供給の安定には役立たない」とか、「CO2が原因で地球の温度が上がってるわけではない」とか、「原発は絶対に動かすべきだ」とか、「ロシアと交渉して一刻も早くガスを入れなくてはドイツの産業が持たない」などと言っているのも『ドイツのための選択肢』です。私が見る限り、これらの主張は皆、正しいと思います。

そのせいか、どんなに攻められても潰れず、それどころか、今は支持者もすごく増えてきて、旧東ドイツ地方では『ドイツのための選択肢』が第一党になっている州も出てきました。そのため、これまでは旧東独の特殊現象のようにも言われていましたが、10月10日のヘッセン州とバイエルン州の州議会選挙では、それぞれ、第2党、第3党にのし上がりました。どちらも旧西独の州です。

「ドイツって西と東が統一した」というのは勘違い?

鈴木:旧東ドイツは社会主義でしたけど、そこで保守の『ドイツのための選択肢』が第一党になってる州もあるということですか? 何か不思議な感じです。そもそも、旧東ドイツというのは、どういう状況になっているんでしょうか?

川口:ドイツって「西と東が統一した」と言いますけれど、統一じゃなくて西が東を占領したんです。だから、教育界も経済界も政治界も、すべてのところに西の人間が来て、上のポストを全部取ってしまいました。

東の人たちは「二流の人」みたいな扱いになって、それがいまだに続いています。上のポストは、みんな西出身なんです。いまだに西の「上から目線」はあまり変わっていません。

鈴木:30年経っても変わらないのですね。

川口:私は38年間ずっと、シュトゥットガルトといって、西のイデオロギーの中心みたいなところに住んでいました。ここはメルセデスベンツの本社とかポルシェの本社なんかもあって、すごく景気が良かった町です。

東独からは遠く、東に親戚がいるとかそういう人たちもあんまりいないから、皆、東のことにはそれほど興味もなく、西側の人間に支配されたメディアがさりげなく流す「上から目線」報道が、そのまま受け入れられてしまっていたような気がします。

私は、自分ではあんまりそういうのに影響されないつもりでしたけど、やっぱり影響されていたんだなって思ったのは、もう4年になりますけど、ライプツィヒに引っ越してからです。ライプツィヒというのは旧東独の大都市で、これはすごいと思いました。ドイツの歴史の中心って、実は東だったんですよね。

たとえばシュトゥットガルトとかミュンヘンは、今では大きな顔をしてますけど、元々は文化の中心でも、経済の中心でもなかった。でも、戦後の奇跡の経済発展があり、一方の東独は社会主義の計画経済で衰退したので、ひっくり返っちゃったんです。

鈴木:たしかに東は貧しい、というイメージがありますね。

川口:でも、東の人たちは今でも伝統や歴史にすごい自負があるし、元々、同じ国の同じ国民だったわけですから、西に比べて劣っていたわけでもなく、すごく知的な人たちがいるわけです。ただ、社会主義のために発展できなかったということがあったわけです。

ですから、その人たちの目から見たら、今の西というのは軽佻浮薄な成金だと思っているフシがある。「ドイツの真髄は自分たちの方にある」といったところではないでしょうか。

Next: メディアが偏向報道…ドイツの現状から日本が学べることは多い

1 2 3 4 5 6
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー