総務省の物価統計以上に大きな物価上昇
そもそも物価上昇の認識が政府日銀と消費者との間で異なります。
政府は物価高対策を政策の柱としながら、基本的にはまだ「デフレ脱却への正念場」と言っています。まだデフレが終わっていないとの認識です。そしてインフレといってもほかの国と比べればマイルドとの認識です。確かに総務省の全国消費者物価統計(CPI)では直近11月のコアの上昇率は前年比2.5%で、一時の4%上昇から減速しています。
しかし、個人の認識は日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、この1年の物価上昇率が平均で14%に達しています。日銀がインフレの尺度としている「コア」インフレ率の2.5%とは大きな乖離です。これには家計が頻繁に目にする食料品などの上昇率が大きいほか、総務省のCPIが実態より低く表示されているためです。
例えば、CPIには実体のない架空の費目「持ち家の帰属家賃」が入っていて、これが前年比ゼロで、このウエイトが全体の2割近くあって全体の物価上昇率を薄めています。実際、この帰属家賃を除いた上昇率は11月で3.3%になります。実質賃金や実質消費の計算にはこの3.3%の数字が使われます。
さらにまた日本のCPIはパソコン・電気製品・自動車などの「機能向上」「容量増加」などを付加価値増ととらえ、その分を「価格引き下げ」と読み替えています。従ってノートパソコンの値段は25年前も今も1台20万円前後ですが、統計上ではこの間の機能向上を読み替え、20万円から7,000円に下落したことになっています。自動車も25年前から2倍以上になっていますが、統計上はまったく上がっていないことになっています。
つまり、日本の物価統計は現実の価格を集計したのではなく、同じ付加価値のものと置き換えた上での価格になっているので、街の価格とは異なるもので、現実のインフレ率より低く出ています。その分、個人の実感と乖離するものとなっています。
庶民の手に届かなくなった自動車、ホテル代
物価の中でも国民が毎日のように目にする食料品価格が7~8%上昇していますが、価格がそのままでも容器が1リットルから900ccに減ったり、1袋の内容量が減って、ステルス値上げしているものも含めれば10%以上は上がっています。それでも食べないわけにはいかず、食料品の価格高騰が家計を圧迫しています。
例えば直近11月の「家計調査」では消費全体に占める食料費の割合を示す「エンゲル係数」が28.4%と、前年の26.8%から上昇し、それ以外の消費に回る余力が低下しています。
その中で家計の購買力に比べて大きく値上がりしていて、庶民の手に届かなくなる可能性がある2つが気になります。
1つは自動車価格の上昇です。物価統計上は上がっていないのですが、現実の価格はこの四半世紀でみても最近でみても大きく上昇しています。四半世紀前にはトヨタのカムリやホンダアコードが1台200万円前後で、サラリーマンの平均年収の半分以下で買えました。しかし、今では「軽」で200万くらいするようになり、年収は増えていないので、かつてのカムリ、アコードが今の軽になっています。その軽も非正規雇用の年収を超えています。昨年からは半導体不足の影響で一段高となりました。人口減とこの価格高とから、国内での自動車需要は富裕層に限定され、縮小しそうです。
もう1つがインバウンドの需要増とコロナ規制緩和が重なって宿泊費が大幅上昇しています。11月の全国の宿泊料は前年比62.9%上昇と、異常な高騰を見せています。観光地では1年前の2倍というところも少なくありません。
自動車購入も観光地でのホテル宿泊も庶民の手を離れつつあります。