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ついに最悪期に入った中国経済。2027年まで「首相記者会見ナシ」で押し通すしかない悲惨な内情=勝又壽良

財政均衡と重商主義

全人代では、24年の実質経済成長率目標が「5%前後」と発表された。この目標を実現する具体策は、発表されなかった。

中国経済を動かすテコは、財政赤字拡大しかないが、当局は極めて慎重である。財政赤字の対GDP比は今年、3%と見込んでいる。昨年が3.9%であったから、財政赤字の相対的な規模は縮小される。これで、「5%前後」のGDP成長率をどのように実現するか批判が殺到している。

習氏が、財政赤字拡大を恐れているのは、古典的「財政均衡論者」であることだ。それは、それで非難されることでないが、経済の状況において柔軟に対応すべきであろう。習氏に、それが見られないのだ。目先に「1元」ケチれば、将来は「100元」も損することになりかねない。現状は、まさにこの局面である。

習氏の財政均衡論は、「重商主義論者」となって現れている。EV(電気自動車)、電池、太陽光発電パネルの3種を輸出して、世界シェアの過半を握れという現実離れした目標を立てている。

重商主義とは、輸出を最大化し、輸入を最小化する経済政策である。16~18世紀にヨーロッパで支配的な考えであった。習氏は、この古い重商主義に戻っており、熱烈な財政均衡論によって、中国経済の難局に対処できると信じているのであろう。

習氏は、財政赤字不拡大=重商主義論という背景で、自己の立場を擁護している。最大の目的は、「終身国家主席」を目指しているところにある。経済成長率は低下しても、財政は健全という裏付けがあれば、国内で弁解ができるからだ。その代わり、国内経済はガタガタになる。この状況については、後で触れたい。

習氏が、財政赤字拡大を恐れている背景には、もう1つの理由がある。格付け会社による格付け引き下げ懸念である。

ムーディーズは、中国の信用度について昨年12月、現在の「A1」(上から5段階目)から一段階引き下げる警告を出した。ムーディーズでは、引き下げ警告が出た場合、翌年に実行されるのがパター化している。となると、今年は「A2」(上から6段階目)に引下げられる公算が大きい。このA2は、「将来のある時点において、支払能力に影響を及ぼしうる要因がある」という事態が想定される段階なのだ。

中国は、発展途上国をひとまとめにして米国へ対抗する姿勢をとり続けている。だが、中国の信用度が「A2」以下へ低下したのでは、他国への威厳を保てなくなる。こうなると、国内経済情勢がどのように悪化しても「対外メンツ」を維持して虚勢を保つことを優先するであろう。

中国の王毅外相は3月7日、中国経済衰退論に対して「中国の次はやはり『中国』だ」と見栄を切った。中国のGDP世界2位の座は、インドが急接近するまで安泰である。それだけに、財政赤字拡大を阻止して、さらなる格付け低下を回避したいのであろう。

今後4年が苦難期に

前述の通り、中国首相はこれから4年間、全人代閉幕後の内外記者団との会見を中止する。これは、当局がこの間に中国経済が最悪期を迎えるという判断をしているのであろう。

それを見通しているのが、IMF(国際通貨基金)の中国経済予測である。

IMFは2月、中国経済の年次報告を発表した。不動産開発企業の整理・再編などの対応が遅れれば、2025年の成長率が2.3%に下振れする恐れがあると予測している。都市に住む世帯の増加ペースなどが鈍り、「新築住宅を買う需要が今後10年で35~55%減る」とも試算した。これでは、成長率が急減速して当然である。

IMFは、2024年の実質経済成長率は4.6%と予測した。財政出動の拡大などを踏まえ、23年10月の前回予測から0.4ポイント引き上げたものである。だが、24年の財政赤字は対GDP比で3%である。23年の3.9%を大幅に下回る状況下だけに、24年の「4.6%」は予測過大であることは明らかだ。GDP成長率は、4%そこそこへ引き下げられることになろう。

Next: 「5%成長」は無謀。得意技のGDP改ざんが飛び出すが…

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