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なぜ日本はインバウンド消費“絶好調”でも貧しいままなのか。中国人旅行者の行動から見えた観光地の問題点=牧野武文

中国からのインバウンド旅行客が戻ってきています。日本政府観光局のデータによると、コロナ禍前の7割以上の回復をしているとのこと。一方で、「オーバーツーリズム」の問題も話題になっており、インバウンド旅行客が大都市や特定の観光地に集中しているという問題点も浮き彫りになってきました。

そこで今回は、中国のアウトバウンド旅行の現状、そしてどのようなスタイルで海外旅行をしていて、どんな情報に頼って行動をしているかをご紹介します。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2024年6月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『論語なう』(マイナビ新書)、『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』(角川新書)など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

インバウンド消費は少ない収入のための代償が大きすぎる

日本各地でオーバーツーリズムの問題が話題になっていますが、その根底にある問題として、インバウンド消費が日本社会にとって「投資効果があまり高くない産業」になっていることがあります。

日本総研のレポート「わが国のインバウンド需要に本格回復の兆し」によると、日本総研は2023年のインバウンド消費は、GDPに対して0.4%の押し上げ効果があると試算をしています。これはものすごく小さな数字です。個人消費はGDPの50%以上を占めますから、個人消費が1%ほど伸びた場合の寄与率と変わりありません。

つまり、わずかな収入を得るために、その代償が大きすぎるということがオーバーツーリズム問題の根底にあります。GDP寄与率が小さいということは産業の裾野が狭いということです。

インバウンド消費で恩恵を受ける人は一部の人であり、ほとんどの人にとっては得になることがない。これも問題を深刻にしています。インバウンド消費に関係がない大半の人は恩恵がまるでないのに我慢だけを強いられることになっているのです。うっかりすると、社会の分断を起こしかねない問題です。


このままではオーバーツーリズムの問題が大きくなる一方

最大の問題は日本の観光GDPが低すぎることです。「令和5年版観光白書」(観光庁)では、観光GDP(インバウンド、アウトバウンド、国内旅行含む)の比率は2.0%になっていて、G7の平均4.0%の半分程度です。

各国の観光GDP比率。日本は2.0%と低く、G7各国の平均4.0%の半分しかない。観光業の生産効率を高めることが求められている。出典:「令和5年版観光白書」(観光庁)

各国の観光GDP比率。日本は2.0%と低く、G7各国の平均4.0%の半分しかない。観光業の生産効率を高めることが求められている。出典:「令和5年版観光白書」(観光庁)

欧州の国は経済規模が小さい国が多いので観光GDPの割合が大きくなるとしても、世界最大の経済大国である米国でも2.9%あります。日本は観光立国を目指し、インバウンド旅行者の数を増やす政策を進めていて、これはこれでいいことですが、量の前に質の問題を抱えています。

日本政府も「稼ぐ力」という言葉を使って、観光業の生産性を高める政策を打とうとしていますが、決め手にかける状況が続いています。ここを改善せずに、インバウンド旅行者の数を増やしても、ますますオーバーツーリズムの問題が大きくなるだけです。

日本のインバウンド旅行の問題は、旅行者が大都市に集中していることにあります。インバウンド旅行者をいかに地方に向かわせるか、それが最大の課題になっているのです。

Next: ガイドブックを持たない中国人に観光でお金を使ってもらうためには?

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