EU高関税が中国EVの壁に
EU(欧州連合)は、7月から中国製EVへ最大48.1%の関税率を課すことになった。これでは、中国製電池が他国よりも2割程度、割安とされるメリットが吹き飛ぶのだ。到底、5割近い高関税率を乗り越える見通しが立たなくなったのであろう。
このほか、EUのEV需要が落ちている。24年のEV需要は、昨年よりも10%減が確実となった。中国EV輸出の壁が、それだけ高くなるのだ。
米国は、中国製EVへ100%の超高関税率を課すとしている。米国は、EUの2倍もの高関税率である。EUへのEV輸出が抑制されれば、米国は「ゼロ」同然となろう。
中国のソーラーパネルは、世界市場を「食い尽くした」感じである。それでも、EU市場への進出意欲を見せている。最近、ルーマニア政府が、実施した太陽光発電所の建設プロジェクトの競争入札から、応札していた中国企業2社が撤退した。EUの政策執行機関であるEU委員会が、これらの中国企業に対して不公正な補助金の有無に関する調査を進めていたことが影響したとみられる。
EU委員会は最近、補助金調査で中国企業を狙い撃ちにしている。2月16日に中国の鉄道車両メーカー、中国中車青島四方機車車両(中車四方)に対して調査を開始したのを皮切りに、4月9日には中国製の風力発電装置への調査にも着手した。そのうち中車四方は、調査対象となったブルガリア政府の鉄道車両調達の入札から早々と撤退している。
中国企業は、中国政府から補助金を支給されているので、その実態を暴かれたくなかったのであろう。中国政府が、いかに多方面で補助金を支給していたかを立証している。
企業へ補助金を出す理由
中国は、なぜ輸出企業へ補助金を支給するのか。
補助金を付けた輸出は、外貨資金獲得を目指す点で、一種の「飢餓輸出」に分類される。それは、米国ドルが中国経済の命脈を支えているからだ。現在の外貨準備高3兆2,000億ドル台は、絶対に割り込んではならない生命線である。割り込めば、人民元相場下落に跳ね返るのである。
中国の国際収支では、隠れた「構造欠陥」を抱えている。所得収支で大赤字を出していることだ。配当や金利の支払が、受け取り分を大幅に超過している結果で、2020年以降にそれまでの赤字幅から大幅に跳ね上がっている。
理由は、一帯一路で貸付けた資金が、国際金融市場で借入れた資金の又貸しによるのであろう。一帯一路では、焦げ付け債権が続出している。返済されないばかりか、金利も滞っているのだ。こうして、中国の所得収支は世界最悪の事態を迎えている。中国のウイークポイントである。
<所得収支状況(出所:IMF)>
2019年: -391億ドル
2020年:-1,182億ドル
2021年:-1,244億ドル
2022年:-1,936億ドル
23年以降の所得収支の赤字幅は、未だ発表されていないが、悪化しても改善されている可能性は低い。米ドルの高金利が続いているからだ。
中国が、米国から頻りに内需振興による景気回復策を求められても、これに応えられない最大の理由は、輸出によって米ドルを稼ぎ外貨準備高3兆2,000億ドル台を維持しなければ国家の体面を維持できない点にある。3兆ドル台を割り込んで、人民元相場が大きく安値に落込めば瀕死の重傷である中国経済がさらに悪化の恐れが強まる。皮肉にも「三種の神器」による輸出増加対策は、内需対策にもなっているのだ。
既述のように、EV・電池・ソーラーパネルの輸出「3羽ガラス」は、すでに輸出浮揚力を失った。となると、今後の中国経済はどうなるのかという新たな課題が浮上する。習氏が、もっとも嫌っている不動産バブル崩壊に苦しむ住宅対策で手を打つほかなくなる。
ただ、すでに不動産バブルの責任を地方政府と金融監督当局に転嫁している。習氏は、こうした事態を招いた責任がゼロという立場なのだ。財政赤字で対処する理由を排除しているだけに、これをどう修正するかが最大の問題になろう。