三越伊勢丹ホールディングスは6月30日、中国・上海市にある百貨店「上海梅龍鎮伊勢丹」を閉店した。
報道によれば、入居する物件の賃貸借契約が満了するのに伴う閉店で、これで中国本土にある伊勢丹の店舗は天津市の1店舗のみになるという。
上海梅龍鎮伊勢丹は1997年に開業。日本ブランドの化粧品やアパレル、家電製品を多く扱っていたことから、近くに住む60代の女性は「家から近いし、接客などサービスが良かったのでよく買い物に来ていた」と閉店を惜しむ声があがっていた。
ただ、中国でも百貨店業界の苦戦が続いており、地元資本の百貨店の閉店も相次ぐ状況。上海梅龍鎮伊勢丹の運営会社も営業赤字が続いていたという。
残る1店舗となった伊勢丹の状況は?
中国にある伊勢丹だが、この4月に天津にある2店舗を閉じたばかりで、今回の上海の店舗を含めて、閉店が相次いでいる状況。
いっぽうで中国本土の店舗で唯一残る格好となった天津市の1店舗だが、こちらは中国で商業施設開発を行う「仁恒集団」と伊勢丹が合弁会社を設立したうえで、2021年にオープンしたもの。
仁恒集団の商業施設開発の強みと伊勢丹の百貨店運営ノウハウを生かした一大プロジェクトという、伊勢丹の中国におけるビジネスモデルのなかでも一種特殊なスタイルである点や、あと何よりも開業して間もないこともあり、こちらは当分営業が続きそうというのが多くの見方のようだ。
そんななか、日系のものに限らず百貨店の数は減少傾向にあるという中国国内。日本だと郊外のショッピングモールにことごとく客を取られて……というのがお決まりの流れだが、中国の場合は何といっても現地のネット通販の拡大が大きい模様。
現地商務部のデータによれば、2023年通年のオンライン小売額は11%増の15兆4200億元(約308兆円)と続伸し、また実物商品のオンライン売り上げが社会消費財小売総額に占める割合は27.6%に増えて過去最高を記録するなど、通販の勢いがとまらず、百貨店に来店する客を食っている状況だという。
くわえて、中国国内で長引く消費低迷も尾を引いているのも確かなよう。不動産不況などで景気の先行きに不透明感が広がっている現地では、特に若者の間で工夫しながらぜいたくをやめて消費の水準を落とすといった動きが出ており、町では中古品販売店が繁盛するなど、とても百貨店で買い物といったムードではないようなのだ。
いっぽうで日系百貨店ということでいえば、やはり以前、上海伊勢丹がオープンした1990年代にはあったであろう“日本の神通力”が、もはや損なわれているとの声も。
上海伊勢丹がオープンした当時は、高品質な商品を多く集め、その専門的で高水準のサービスを提供する日系百貨店は一目置かれ、伊勢丹のショッピングバッグを持って街を歩くだけで注目されたということ。
しかし現在、伊勢丹と同じ建物に入っているフィットネスクラブに通う20代の女性は「定期的に来ているけれど、百貨店では一度も買い物をしたことがなかった」と話すなど、30年を経た若い世代にとっては、日系百貨店が誇る高品質で高品位といった価値観が全く響いていないのは確かなようだ。
三越伊勢丹HD自体はインバウンド活況など業績絶好調
こうしてみると、あくまでも物件の賃貸借契約満了が表向きの原因とはいえ、撤退するにはここが潮時といった状況が整っていた感もある上海伊勢丹。実際、売上高は2014年度の119億円をピークに減少傾向となり、23年度は52億円に落ち込んでいたという。
しかしながら三越伊勢丹HD自体の業績はというと、2024年3月期決算を見るに、伊勢丹新宿本店の売上高が過去最高売上を更新したほか、地域主要店舗もそれぞれ大幅増収を達成するなど好調だったようで、売上高5364億4,100万円(前年同期比10.1%増)、営業利益543億6,900万円(83.6%増)、経常利益598億7,700万円(99.5%増)と絶好調。
何よりも目を引くのが、国内百貨店計のインバウンド売上高が1088億円(コロナ前の2018年度比で45%増)と、過去最高を更新したという点だ。
いうなれば、今は日本の伝統的な百貨店スタイルに価値を見出す層が、わざわざ日本に赴いて買い物をしてくれているといった状況ということで、そうであれば消費も落ち込んでいる中国店舗を無理に維持せずともいいのでは……といった思惑も働いたとも考えられそうだ。
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