日銀の悪しき習性
為替介入が持続的な武器になりえないとすれば、あとは日銀の金融政策、つまり緩和修正、利上げによって円安を止めるしかありません。
その際に、日銀には悪しき習性があります。それは「戦力の逐次投入」の習性です。武器を小出しに使うことによって、却って敵に付け込まれるリスクがあり、円安をなかなか止められないリスクがあります。
6月の決定会合では市場の一部に通貨防衛のための利上げを予想する声がありました。しかし、政府から「利上げ待った」の圧力もあり、結果は次回以降、国債の買い入れ減額を予告するにとどまりました。この日銀の姿勢を見て市場はさらに円安で反応しました。
このため、市場では7月末の決定会合では、国債買い入れ減額プランの提示だけでは円安が収まらず、同時に政策金利の引き上げも必要との見方が増えています。
植田総裁も国会で、7月会合での利上げの可能性を否定しませんでした。しかし、日銀には国債減額と利上げの2つの武器を同時に使えば、あと使える武器が減る、との思いが強く、利上げは9月会合までとっておく可能性が高いとみられます。
この「貧乏根性」が却って円安抑止力を低下させることになり、国債買い入れ決定、日本の長期国債金利上昇をもってしても、それだけで円安の流れを止めることはできないとみられます。
トランプのドル安に狂い
市場には円安を止める最後の手段として、トランプ政権の誕生にかける見方があります。
トランプ候補は常々、ドル高は米国経済には「大惨事」と述べています。製造業のためにドルを下げる必要があり、そのためにはFRBは積極的に利下げをすべきとしています。バイデン政権とは別の視点からFRBに利下げを強く期待しています。
一般には米国が利下げを進めれば日米金利差が縮小して、円安に歯止めがかかり、日銀も利上げしやすくなるので、円高に向けるチャンスとの見方です。
しかし、最近の動きはこれとは別のシナリオを示唆している可能性があります。それはトランプ政権になればインフレ懸念が強まり、政策金利を下げても長期金利がむしろ上昇してドル高円安の可能性があることです。
トランプ政権となれば減税などで財政赤字が拡大する面と、インフレが十分に収まらないうちからFRBに利下げを求めて圧力をかけ、それがインフレ懸念を強めて長期金利を押し上げる可能性があります。
これが想定外のドル高円安をもたらす可能性があります。