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狙われた日本のコンビニ文化。セブンイレブン買収提案は日本企業への「警鐘」だ=勝又壽良

事業再編が決まった矢先に

昨年のセブン&アイ・ホールディングスの株主総会では、物言う株主である投資ファンドの米バリューアクト・キャピタルから株主提案がされて緊張する場面となった。井阪社長ら4人の役員退任を求めるバリューアクト提案と会社提案が、株主採決を仰ぐ場面を迎えたのだ。結果は、会社提案通りとなったが、セブン&アイ・ホールディングスとして、もはや事業再編は不可避になっていた。

今年5月の株主総会は、昨年のような事態にならなかった。今年4月、ヨーカ堂などの新規株式公開(IPO)検討方針が公表されていたからだ。こうした事情から、バリューアクトは会社側の対応に賛同を表明して、これまでの対立構図が収まった。

カナダのコンビニ大手であるクシュタールは、この一件落着後を見透かしたように、最も緩い形でM&Aを申し入れてきた。セブン&アイ・ホールディングスは、ガイダンスに従い迅速に社外取締役による検討会議を立ち上げた。

セブンイレブンが築き上げた「コンビニ事業コンテンツ」は、世界のコンビニ業界にない独特のスタイルである。鮮度の高いおにぎりや弁当、パンなどを作り、店に供給するセブンイレブン独特のサプライチェーン(供給網)をつくりあげ、実にきめ細かいプロセスで成り立っている。セブンイレブンは、看板やフランチャイズチェーン(FC)など米社が運営するセブンイレブンの基本モデルを導入した。だが、経営手法はセブンイレブン独特の工夫によって磨き上げたものである。具体的には、次のような内容だ。

コンビニが、日本社会で成功し海外まで発展できたのは、セブンイレブンの経営努力の成果である。ものづくり手法や単品管理、出店方法など日本スタイルをつくり上げた。カリフォルニア大学のウリケ・シェーデ教授は、日本企業の隠れた実力を分析した近著『シン・日本の経営』で、日本の製造業が共通する特徴を7つの「P」を内包していると指摘する。その一つがパラノイア(偏執症)だという。とことんこだわりの「ものづくり」を追求する姿勢である。

セブイレブンの店頭に並ぶ多くの食品が、セブンイレブンのPBブランドである。特に、食べ物に「オリジナル」が詰め込まれている。セブンイレブンに刺激された日本のコンビニは、アニメや漫画に並ぶ日本の「ソフトカルチャー」の代表と指摘されるほどまでになっている。

セブイレブンの人気商品の食べ物が、日本製造業の特色であるパラノイアの結晶とすれば、M&Aによって消失するであろう。クシュタールは、こういう独特のコンテンツを抱えるセブンイレブンの中身を詳細に把握しているとは思えないのだ。ただ、セブン&アイ・ホールディングスの株価が安いから、M&Aを仕掛けてみるかという軽い気持ちとすれば「大火傷」するに違いない。中身を失うからだ

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