政府内で浮上していた消費税引き下げ論が、日米交渉の進展とともに大きく後退しています。かつてはトランプ政権の圧力や選挙戦略の一環として具体化しかけた減税案ですが、米国側の交渉姿勢の変化や、日本政府の対応方針の転換により、今や選挙の争点からも外れつつあります。政府の迷走、そして「次の一手」が見えないまま迎える参院選に、不安の声が広がっています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年5月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
どうなる消費税減税
消費税に対する政府内の考えが2転3転しています。
もともと政府は消費税引き下げには消極的でした。それが米国との相互関税交渉の中で、トランプ政権が消費税の廃止を求めてきただけに、政府内にも引き下げやむなし、のムードが高まり、それなら消費税引き下げを参議院選挙の目玉にしよう、との動きまで出ていました。
ところが、日米関税交渉の過程でトランプ政権による「農協解体」「財務省解体」が頓挫し、日本がにわかに強気になるなかで、消費税引き下げ機運がすっかり後退してしまいました。
野党は多かれ少なかれ消費税の廃止、引き下げ、一時的引き下げ論をたて、選挙に臨もうとしているだけに、政府は参院選にどう臨むのか、不安の声も上がっています。
政府の姿勢大きく後退
第1回の日米関税交渉の時点では、米国の要求をまず聞き、それにどう答えてゆくか検討していました。トランプ政権の交渉上の優先順位はまず円安修正のための日銀利上げ、ついで消費税廃止、そしてコメなど農産物の市場開放、米国車の販売促進のための規制緩和と並んでいました。
その時点で日本サイドとしては高い相互関税を回避するためには消費税の引き下げもやむなし、の状況でした。その際、党の税調からは税率の引き下げや食品などの個別対応ではシステムの変更コストなどがかさみ、いっそのこと消費税全体をやめる手もある、との声までありました。当然、そこまでやるなら、政府としてはこれを参議院選挙の目玉に使い、場合によっては衆参同時選挙で少数与党から脱却するチャンスとの声もありました。
ところが、トランプ政権の迷走を見て、政府の見方が変わりました。
当初はトランプ政権が求める「4月中の回答」を準備していたのですが、トランプ政策の迷走を見て、政府内には「トランプ関税は年内にも大幅修正をせざるを得なくなる」との見方が台頭、米国との交渉においては拙速で妥協することなく、じっくり構えて敵が折れるのを待つ戦略に変わりました。
これは石破総理もつながりのある米国CFR(外交問題評議会)からの情報も影響しているようです。米国ではニューヨーク州など民主党系の12の州でトランプ関税は緊急事態には当たらず違法であるとして、差し止め請求が出ています。
これが連邦最高裁でどう結論が出されるのか、ということですが、違法判決となれば、関税を取り下げることになります。この情報に乗って政府は時間をかけてじっくり交渉しようということになった模様です。
この結果、日本の税体系に大きな影響を与える消費税の見直し論は大きく後退しました。
もっとも、それでは選挙が戦えないとする自民党議員69名が森山幹事長に消費税引き下げを求め、幹事長はこれを党税調での議論に付す姿勢を見せました。税調で議論してガス抜きを図る意向とも見られています。政府の消費税引き下げ機運は大きく後退しています。
この消費税も含めた対米交渉での日本の変節には2つのリスクがあります。
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