どこの国でも、税金や社会保障の国民負担率は高く、市民の頭痛の種になっていますが、中国は国民負担率が非常に低い国になっています。個人所得税は、労働者の約3割の人しか払っていません。7割の人は、基礎控除などをすると、課税所得が0元になってしまうため、所得税を支払う必要がないのです。
では、所得税が少なくて、どうやって国は税収を上げ、国家予算を組んでいるのでしょうか。中国の場合は、付加価値税(日本の消費税に相当)と企業所得税(法人税)が主な税金の収入源になっています。
付加価値税も、店頭の価格表示には表示されません。そのため、多くの人が付加価値税を支払っていることを意識していません。非常に負担感の少ない国になっています。
税収の他に、政府性基金による収入があります。中国は土地が国家所有になっていますから、その使用権をデベロッパーなどに売却をし、その売却益でインフラ開発を行っています。また、罰金や没収金の収入も大きくはないものの、重要な収入源になっています。
今回は、中国の歳入がどのようになっているかをご紹介します。中国の税負担感が小さいことを感じていただくために、日本との比較も行います。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2025年5月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『論語なう』(マイナビ新書)、『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』(角川新書)など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
中国人の約7割は所得税を払っていない
中国のような社会主義国は、国民負担率が高いのではないかという思い込みがあり、会う人会う人に「税金の負担は重たいですか?」と尋ねていた時期がありました。
大企業に勤めて高報酬を得ているような人や小さくとも会社経営をしているような人は、日本人と同じ反応です。「所得税の最高税率は45%で、ものすごく負担は大きい」というものです。しかも、会社員の場合は、経費で認められるものがほとんどないため、収入がほとんどそのまま課税所得になります。
一方、街中で飲食店をやっていたり、屋台をやっていたり、タクシーやライドシェアの運転手をしていたりという、いわゆる普通の庶民に聞くと、判を押したように「所得税?それ何?見たことない!」という反応が返ってきます。
誰でも税金の話をするのは楽しいことではないので、話を逸らすために冗談で応じているのかと、最初は思っていました。しかし、調べてみると、中国人の約7割は所得税を払っていないのです。
中国の所得税の仕組みは合理的にできています。日本の所得税は、課税所得の額で税率が決まってしまい、課税所得すべてにその税率がかかることになりますが、中国では、課税所得がいくらであれ、年間3.6万元部分までは3%、それ以上から14.4万元部分までは10%というように段階的に税率が変わります。そのため、課税所得が多い人は複数の税率が適用されていくことになります。
年収96万元(約1,920万円)になると、最高税率の45%がかかりますが、96万元×45%=43.2万元が所得額になるわけではありません。年収がいくらであろうと3.6万元までの部分までには3%、14.4万元までの部分には10%という具合に適用されていきます。
欠点は、税金の計算が面倒なことですが、速算表が用意されています。年収96万元の人は96×0.45=43.2万元と計算をして、そこから速算表の控除額を引き算します。
43.2万元-18.192万元=24.408万元が実際の支払うべき所得税となります。これで3.6万元までの部分までには3%、14.4万元までの部分には10%…と計算したことになります。
そのため、実質的な税率は、
24.408万元÷96.0万元=25.4%
となり、収入が増えれば増えるほど45%に近いていくことになります。
年収96万元というのは、大手企業での役職クラスです。日本で同額の人の所得税率は40%で、中国と違って、課税所得全体の40%ですから、中国の所得税負担は非常に小さいということができます。
さらに、年間課税所得6万元(約120万円)以下の人は納税が不要です。全員に基礎控除6万元が認められているので、課税所得が0以下になるからです。確定申告をする必要もありません。日本の103万円の壁と同じように6万元の壁があるのです。
さらに、子女教育、乳幼児・高齢者扶養、住宅、社会人教育、医療費などは控除が認められています。このような控除を受ける人は確定申告をし、内容によっても異なりますが、だいたい10万元程度の年間課税所得であれば、控除を引いて課税所得6万元以下となり、納税の必要がなくなります。