SBIグループとの資本業務提携1000億円の行方
期待される連携としては、SBIの投資信託商品をドコモと共同で開発したり、SBIのシステム開発をNTTデータが担ったり、といった話があるようです。
しかし、これらは資本関係がなくても通常業務として可能なレベルであり、資本業務提携として見るとかなり「弱い」連携に見えます。
<SBIの強力な交渉カード:住信SBIとSBI証券の「銀証連携」>
この資本業務提携の真意を理解するには、SBIが持っていた強力な「交渉カード」に注目する必要があります。住信SBIネット銀行は、SBI証券と非常にうまく連携していました。例えば、住信SBIに外貨預金した資金を使ってSBI証券で米国株を購入する際、為替手数料が大幅に優遇されるといったサービスがありました。この「銀証連携」の利便性から、SBI証券の顧客が住信SBIネット銀行に口座を開設するケースが多かったのです。
SBIは、住信SBIネット銀行への出資がゼロになることから、このSBI証券との連携を「もうやめてしまう」と示唆できる、非常に強いカードを持っていたのです。もしこの連携が切れてしまえば、住信SBIネット銀行の顧客が減少する恐れがあり、ドコモとしてはこれは何としても避けたかったはずです。
<ドコモの弱みと1,000億円出資の背景>
一方、ドコモ側には弱みがありました。ドコモはすでにマネックス証券を買収済みであり、自社で証券事業を持っています。そのため、SBI証券とうまく連携させようとしても、事業がバッティングするため非常に難しくなります。これにより、ドコモはSBIに対して提示できる交渉カードが限られていました。
こうした状況から考えると、今回のSBIグループへの1,000億円の出資は、SBI証券との銀証連携を維持するためのコストであった可能性が高いでしょう。結果的に、SBIは住信SBIネット銀行の株式売却代金と合わせて、ドコモからおよそ3,000億円もの資金を引き出した形になります。今後、ドコモとSBIの間で具体的な事業連携が活発に行われる可能性は低いと私は見ています。SBIは、銀証連携の維持というカードを人質に、今後もNTTグループから資金を引き出す戦略を続けるかもしれません。
<皮肉な結論:真の勝者はどちらか?>
今回の件を通して、銀行という事業そのものを手に入れたのはNTTドコモです。しかし、皮肉な見方をすれば、総資産30兆円規模という巨大なNTTグループという「銀行」を手に入れたのは、むしろSBIグループの方ではないかとも言えるのです。
NTT株への投資判断 – 安定した株主還元と今後の成長戦略の行方
さて、今回の出来事を見て、「NTTは交渉が下手だな」という印象を持たれた方もいるかもしれません。しかし、NTTへの投資を考える上で、今回の件はどのように評価すべきでしょうか。
結論から言えば、NTTはとてつもなく巨大な企業であり(総資産約30兆円)、子会社ドコモの収益力も莫大です。したがって、今回のような一件でNTT全体がおかしなことになるわけではないと考えます。
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