fbpx

真の勝者は?NTTの巨額M&A戦略を徹底解剖〜NTTデータ完全子会社化と住信SBIネット銀行買収の真意とは=栫井駿介

住信SBIネット銀行買収劇の舞台裏 – 壮絶な価格交渉とSBIの戦略

今回の住信SBIネット銀行の子会社化は、単なる買収で終わらない、非常に興味深い交渉劇でした。ここには、NTTドコモ、三井住友信託銀行、そしてSBIグループという3つの主要な登場人物がいます。住信SBIネット銀行は、その名の通り三井住友信託銀行とSBIグループの合弁事業として始まりました。

交渉の始まりは2022年、三井住友信託銀行からドコモに対して、共同で事業を行わないかという打診があったようです。当時は、おそらく三井住友信託銀行とドコモの2社を中心に話が進められており、SBIの名前は当初あまり出てこなかった可能性があります。

SBI側には当時別の事情がありました。SBIグループは新生銀行や地方銀行の買収を進めており、そちらの経営が比較的うまくいっていたため、住信SBIネット銀行への注力が弱まっていたのではないかと思われます。ちなみに、SBIの北尾CEOは非常に交渉力が強いことで知られています。

<SBIの撤退意向と買い取り価格を巡る攻防>

三井住友信託とドコモの間で話が進み、「やりましょう」となった段階で、SBIにも話が持ちかけられました。SBI側も表面上は乗り気だったようですが、すでに住信SBIネット銀行の経営への興味は薄れていたのかもしれません。

結果として、SBIは住信SBIネット銀行から撤退する意向を示し、保有する株式(約34%)を売却することになります。ここで焦点となったのが、ドコモによる買い取り価格、すなわちTOB価格でした。市場価格にどれだけのプレミアムを上乗せするのかを巡って、壮絶な交渉が繰り広げられます。

<ドコモとSBIの壮絶な価格交渉と交渉中断>

価格交渉は難航します。

  • ドコモは当初、TOB価格として4640円を提示。市場価格に対しては高いプレミアムを乗せていたものの、SBIは「本源的価値に対して大幅に不十分である」とこれを拒否しました。
  • ドコモと三井住友信託側は、4,640円でも十分高いと考えていたようで、「これ以上は飲めないなら交渉をやめる」と示唆。
  • 結果、2025年2月にはいったん交渉が中断されました。この時、ドコモ社長も決算会見で交渉決裂を示唆するような発言をし、SBI側も「銀行に不要な要素が多いからわざわざ買わなくていい」といった発言をしていました。

<交渉再開とSBIへの「お土産」>

しかし、2025年4月になり、交渉は再開されます。ドコモは自社での銀行設立なども検討したようですが、やはり住信SBIネット銀行がどうしても必要だと考えたのかもしれません。

ただ、単に交渉を再開しましょうと言ってもSBIは応じません。ここでドコモ側は「お土産」を持って行きます。それが、SBIグループに対する約1,000億円規模の「資本業務提携」、すなわちSBIへの出資話です。もともと話としてはあったのですが、その割合を引き上げることを提示しています。

<再燃した価格交渉とSBIの粘り>

資本業務提携の話とは別に、住信SBIネット銀行の買い取り価格(TOB価格)を巡る交渉は再び加熱します。

  • 5月16日、ドコモは価格を下げて4,300円を提案(市場価格が下がっていた可能性)。SBIは再び「安すぎる」と拒否。
  • 5月20日、4,700円に増額。SBIは「まだ安すぎる」。
  • 5月26日、ついに4,810円に。SBIは「まだ安い」。
  • 5月27日、4,870円に。これも拒否。
  • そして5月28日、ついに4,900円が提示されます。

この価格で、SBIはついに合意に至ります。この交渉過程を見ると、いかにSBI側が交渉上手で粘り強く、ドコモ側があまり交渉カードを持っていなかったかが伺えます。ドコモはすでにSBIへの出資話を出してしまっていたため、それ以上の交渉カードは価格を上げるか、さらなる出資をするかぐらいしかなかったのです。

結果としてTOBはまとまり、住信SBIネット銀行はドコモの傘下に入りました。最終的な出資比率は、議決権ベースでは三井住友信託とドコモが50%ずつですが、金銭的なメリットはドコモが6割から7割程度を持つ形になりました。実質的にはドコモが経営を主導し、三井住友信託の銀行としての知見を借りる形になると思われます。

TOBはまとまりましたが、ここで一つ疑問が残ります。それは、TOBとは別に進められたSBIグループへの約1000億円規模の資本業務提携です。この1000億円で何をするのでしょうか?

Next: 真の勝者はどっち?ドコモの弱みと1,000億円出資の背景

1 2 3 4 5
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー