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だから戦争は消えない。欧米の指導層を支配する「終末論コンプレックス」の正体とは=高島康司

<1. 終末の兆候(Signs of the End Times)>

彼らは「マタイによる福音書24章」や「黙示録」を基に、以下の兆候が現れると神の降臨が近いと考える。

まずは、イスラエルの国家としての再建とその拡大だ。1948年の建国はその一部成就とみなされる。1967年のエルサレム支配で預言はさらに成就に近づき、エルサレムで第三神殿が建設されると終末期の到来は本格的になる。これが反キリスト登場の舞台とされる

次に、世界的な混乱、戦争、地震、疫病がある。それとともに、道徳的退廃と霊的堕落が広がる。アメリカや西欧社会の現代文化はしばしばその例に上げられる。また、パンデミックや経済崩壊などを予兆とみなす。さらに、教会すら堕落する大規模な背教がある。

その後、反キリストの登場(Antichrist)がある。それによって、世界統一政府の萌芽が現れる。現代のグローバリズムはその兆候と見なされている。世界統一通貨や管理社会を反キリストの布石でもある。そのとき、宗教を統一する動きもあるとされる。

<2. 携挙(Rapture)>

その後やってくるのが「携挙」である。「携挙」とは、イエスを信じる者は空中に引き上げられることだ。一方、残された世界では大患難(Great Tribulation)が起きる。

<3. 大患難(7年間の災厄)>

その後、反キリストによる統治と神の裁き(戦争、飢饉、疫病など)がある。

<4. ハルマゲドンの戦いとキリストの降臨>

次に、イスラエルが憎まれ、最終戦争となる「ハルマゲドン」が起きる。その過程で、キリストが地上に降臨する。キリスト教に改宗した14万4,000人のユダヤ教徒は救われるが、残りの異教徒は焼き殺される。サタンと悪の勢力を打ち倒し、千年王国(Millennial Kingdom)が設立される。

これを見ると明らかだが、イスラエルの建国と拡大、そしてハルマゲドンに至る過程は、キリストが降臨して千年王国が建国されるためのもっとも重要は条件である。だから、福音派は全面的にネタニヤフのイスラエルを支援する。彼らの目には、ガザとヨルダン川西岸地域の大虐殺はまったく目に入らない。現実として、存在していないかのように振る舞う。

これは、アメリカの福音派に近いエリートから一般の庶民まで、同じマインドセットを共有している。このような盲目的な支持が、ガザ戦争の合理的な停戦と和平を阻んでいる大きな要因のひとつであることは間違いない。

各国の終末論コンプレックス

だが、これはアメリカだけに限定される現象ではない。いま、直接的、間接的に戦争にかかわっている多くの関係国に終末論コンプレックスと呼ばれるマインドセットが多かれ少なかれ一般的になっている。

以下にまとめたので簡単に紹介しよう。

<ロシア>

プーチンのロシアはロシア正教の影響か強い。ロシア正教は、ロシアを「聖なるロシア」として特別な使命を持つ国と捉える傾向がある。この思想と終末論が結びつき、「聖なるロシア」が最後の防波堤となり、世界の終末に際して信仰を守る役割を果たす、といった見方が現れている。

そして、ウクライナ戦争は、善と悪の最終的な戦い、あるいは悪魔払いの側面を強調するように終末論的に解釈されている。これが、ロシア国民がウクライナ戦争を支持する理由になっている。

<イスラム圏>

現代のイスラム教における終末論は、クルアーン(コーラン)とハディース(預言者ムハンマドの言行録)に基づく古典的な教えが中心にありながら、現代の国際情勢や社会状況と結びつけて解釈される傾向が見られる。ユダヤ教やキリスト教の終末論と共通する要素も多く持ち合わせているが、イスラム教独自の預言と出来事が特徴的だ。

メシアであるイマーム・マフディー、また偽メシアのダッジャールなどが登場して、終末期の大戦争に至る。そして、イーサと呼ばれるキリストが降臨して、最後の審判になる。イスラエルとの戦争は、予定された大戦争である。

<イスラエルのシオニスト>

ユダヤ教には古くから、メシア(救世主)の到来によってユダヤ人が約束の地イスラエルに帰還し、神殿が再建され、全世界が平和と正義の時代を迎えるというメシア思想(終末論的救済思想)がある。伝統的なユダヤ教では、メシアの到来は神の奇跡によってのみ起こるものであり、人間が積極的にそのプロセスを加速させることは禁じられている。

しかし、シオニズムは、伝統的なメシア思想とは一線を画している。ユダヤ国家イスラエルの建国を単なる政治的出来事としてではなく、メシア時代の到来に向けた神の計画の一部と捉える。シオニストにとって、イスラエル建国は預言の成就であり、救済のプロセスがすでに始まっていることの証拠である。イスラエル国家は神聖なものであり、その領域(特にヨルダン川西岸地区)の確保はメシア到来の前提である。

したがって、いまのガザ戦争とヨルダン川西岸地区の占領こそ、メシア到来の前提を整える戦いである。

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