きょう8月15日の日経平均株価は前日比729円高の4万3,378円と、13日に付けた過去最高値(4万3,274円)を更新しました。株式市場の好調ぶりに驚いている方も多いのではないでしょうか。なぜ今、これほどまでに株価が上昇しているのか、そしてこの状況は「バブル」なのか、今後の投資戦略はどうすべきかについて、詳しく解説していきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
なぜ日経平均は過去最高を更新したのか?メディアが報じる理由とその裏側
メディアでは、日経平均の好調を支えるいくつかの要因が報じられています。
- 日米関税の合意
- 日本企業の決算・業績見通し
- AI関連銘柄への期待
日米間の関税が15%でまとまる見込みとなり、過度な懸念が後退したこと。
発表された日本企業の決算や業績見通しが「マイルド」で、市場の期待を大きく裏切らなかったこと。
特にアメリカのテック企業を中心にAI(データセンターへの投資)が加速しており、経済成長への期待が高まっていること。具体例として、データセンター向け光ファイバーや機器を製造する藤倉の株価が急騰し、情報修正も発表されています。また、AI関連銘柄としてソフトバンクグループも注目されており、半導体設計会社アームへの投資がその恩恵をもたらし、同社も過去最高水準の株価を記録しています。
しかし、これらの理由だけで現在の株価上昇を説明できるのでしょうか? 実は、少し疑問符がつく点もあります。
- 関税の影響
- 全体業績の不調
たとえ15%でまとまったとしても、関税はかかるわけで、それが米国での物価に転嫁されれば、経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。
AI関連銘柄は好調なものの、日本企業全体としては、第1四半期の決算は前年同期比で若干マイナスとなっています。特に自動車会社(ホンダやトヨタなど)は関税の影響で業績を落としており、全体として株価が上がるほどの状況ではないかもしれません。
このように、メディアで報じられる「良い材料」は、あくまで「話半分」で聞く姿勢が重要です。これらの情報に流され、「本当に好調なんだ」と安易に信じ込むのは危険かもしれません。

日経平均株価 週足(SBI証券提供)
株価上昇の「本当の」理由:市場心理と利下げ期待、そして「降参」
では、現在の株価上昇の本当のメカニズムは何なのでしょうか?キーワードは「降参(ギブアップ)」です。
- 「買いが買いを呼ぶ」心理
- アメリカの利下げ期待
- 出遅れ株としての日本株
- 「谷深ければ山高し」と「降参」
- 夏枯れ相場の影響
株価が上がると、それを正当化するような良い材料が後から次々と報じられ、それを見た投資家が「やっぱり買わなきゃ」と行動を起こし、さらなる上昇を促すという循環があります。
現在、世界の株式市場を大きく動かしているのは、アメリカの利下げ期待です。アメリカ経済の雇用が思わしくないという見方があり、経済が良くない時には金利が引き下げられるのが一般的です。金利が下がると株価は上がるという定説があるため、世界の投資家は米国の利下げを期待し、積極的に株を買い進めている状況です。
世界の主要市場を見ると、今年の株価上昇はヨーロッパが20%程度、中国もかなり上がっているのに対し、日本は最近の上昇があったとはいえ11%程度と、出遅れ感がありました。このため、世界中の投資家が「日本株はまだ割安だ」と判断し、資金が流入してきた側面があります。
今年4月にトランプ関税ショックで株価が大きく下落しました。しかし、相場の格言に「谷深ければ山高し」という言葉があるように、大きく下がった後は大きく上がりやすい性質があります。トランプ関税ショックの際に「市場は危ない」と感じて株を売ったり、空売り(ショート)していた投資家がいました。しかし、株価が反発して上昇を続けると、彼らは「上がっているのに買わないのはまずい」と感じ始め、買い戻しや新規の買いに動きます。特に空売りをしていた投資家は、損失を避けるために買い戻し(踏み上げ)を強いられ、この動きがさらなる上昇を加速させます。この現象こそが「降参」です。つまり、これまで「まだ下がるかも」と抵抗していた投資家たちが「もう無理だ、買わないとやばい」とギブアップして買いに転じることで、株価が急上昇するのです。
夏の時期(特に日本のお盆など)は、機関投資家が休暇に入り、市場に参加する投資家が少なくなる「薄商い(うすあきない)」になりやすいという特徴があります。このような時期は、わずかな取引でも株価が大きく動きやすいため、現在の急激な上昇もその影響を受けている可能性があります。
これらの要因、すなわち「景気の現状」「これまでの市場の動向」「現在の薄商いの状況」が組み合わさって、今の株価上昇が起こっていると考えるのが、最も現状を正確に説明していると言えるでしょう。