危険すぎるチキンレース
つまり、今の状況は、2013年12月のテーパリング(緩和縮小)決定時や昨年12月の初回利上げ決定時の直後の陶酔(ユーフォリア)状態となんら代わりがないのです。
世界が先進国だけで動いていれば何も問題なくリスクオンを享受し続けることができるでしょうが、ドル建債務が巨額の新興国にとってドル高は黙っていても借金が日に日に膨らんでいく地獄なのです。
新興国発のリスクオフがいつ起きるかは誰にも予測できませんが、既に中国は10月から外貨準備取り崩しによる米国債売却を急増させていますし、ベネズエラ通過暴落など、「危機の兆し」はいたるところに出てきています。
明日にでも新興国危機が起きるのか、今回も年明けからのショックとなるのか、それとも数ヶ月延命できるのか判りませんが、いずれにしてもドル高による危機はいつ表面化してもおかしくない状況になっています。
このような中で、米国の来年の利上げ予測上方修正とそれによるドル高期待だけで円安株高を予測するのは極めて底が浅い見方といえるでしょう。
そもそも、トランプショック以降、マーケットの予見機能は完全に崩壊しています。リスク資産であればリスクトリガーを先取りする形でイベント前からリスクオフになるのが通常ですが、今回は目の前に断崖絶壁が見えているのに突き進むチキンレースのように、予見機能が働かない状況が続いています。
それ故のドル高/円安ハッピーシナリオなのでしょうが、米金利が上昇してドルが上昇すると、ただでさえドル建債務が多い新興国のデフォルトリスクが飛躍的に高まるという当然の帰結すら予測せずに突き進むマーケットは、異常なオーバーシュートに気付いていながらも、持たざるリスク対策で持ち続けるチキンレースをしているとしか思えません。
既に来年3回の利上げを織り込んだのに突き進むドル高と、リスクオンが永続する前提で円売りを仕掛ける短期筋による急激な円安は、このように一旦リスクが顕在化すると一気に巻き戻されるリスクを孕んでいるといえます。
今、円を売り仕掛けしている短期筋は「短期筋」というだけあって、リスクが顕在化したときは即座に買い仕掛けに転じるでしょう。ナンピンを入れるなんて絶対にしません。
ドル高の影響が顕在化するXデーが判らない以上、このようなチキンレースに付き合うのは危険だと私は考えています。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2016年12月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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