「日露共同経済活動」が失敗すれば、取り返しのつかない事態に
そもそも、日露共同経済活動が北方領土で行われたとしましょう。その時、北方領土での日本企業・日本人の活動が全て「ロシアの法律の下」で行われることを、日本政府が是認し、実際そのようにされたとしましょう。
そうすると、「日本政府が北方領土はロシア領であること(=北方領土の主権が日本ではなくロシアにあること)」を、「正式」に認めたことになってしまうのです。
例えば、日本政府の許可を得て北方領土に訪れていた日本人が、何らかの罪を犯した時に、「ロシアの警察」に捕まり、「ロシアの裁判」で裁かれ、そして日本側がそうなることを是認していたとすれば、それは事実上、日本政府が北方領土の主権がロシアにあることを認めたということになってしまいます。
そうなったとき、北方領土問題は、今日よりも修復不可能な事態にまで「後退」することになります。
なぜならわが国がこれまで一貫して公言し続けていた「北方領土の主権は日本にある」という主張を、この「共同経済活動」を契機として取り下げたも同然の状況になるからです。
そうなれば、世界中の誰の目から見ても「北方四島には領土問題が存在しない」ということになってしまいます。そもそも領土問題というものは、特定の島や地域の「主権」を(少なくとも)複数の国家が主張してはじめて存在することになるからです。
ロシアの法律の下で行われる「共同経済活動」
そして恐ろしいことに、ロシアのタス通信はまさに、上記の懸念通りの内容を報道しています。
ロシアのタス通信は、少人数の会談に出席したウシャコフ大統領補佐官が記者団に対して、「両首脳は、島々の共同経済活動に関しての協議開始に向けた発表内容で合意した」と述べたと伝えました。
(中略)
ウシャコフ補佐官は「島々での共同経済活動はロシアの法律の下で行われることになる」と述べたということです。出典:日ロ首脳会談 特別制度の共同経済活動などで議論 – NHK NEWS WEB
これはあくまでもロシアでの報道であり、真実である保証は全くありません。とはいえもちろん、総理は「共同経済活動はロシアの法律の下で行われることになる」ということが、最悪のシナリオであることを深く理解していると考えられます。
だからこそ総理は、記者たちに対して「四島における日ロ両国の特別な制度のもとでの共同経済活動」を強調されたのだと思われます。
※http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161215/k10010808571000.html
つまり、この総理発言の趣旨は、共同経済活動は決して、ロシアの法律の下で行うのではなく、「四島についてのロシアの主張」と「四島についての日本の主張」の双方に抵触しない「特別な制度」でもって行うものだ、というものです(実際、共同声明には、共同経済活動の調整や実施が「平和条約問題に関する日露の立場を害するものではない」と明記されています)。