大事なのは「特別な制度」の中身。北方領土問題前進の条件とは?
そうなると、ここで問題となるのは、その「特別な制度」なるものの「中身」だということになります。
「日米双方の領有権主張に抵触しない特別制度」なるものができる限りにおいて、北方領土交渉は、今回の新しいアプローチによって「前進」したということができるでしょう。しかし、そういう「特別な制度」ができなければ、結局は共同経済活動もできなくなりますから、前進も後退も無く、何も変化しない、ということになります。
ただし、ここで恐ろしいのは、「四島はロシア領である」というロシアの主張は反映されている一方で、「四島は日本領である」という日本の主張が(実態上)反映されて「いない」制度の下で共同経済活動が行われてしまう、というケースです。そうなれば、日本が北方領土の領有権を実質的に「放棄」したことになり、結果として、今回の新しいアプローチによって、北方領土問題は「大きく後退」してしまうことになるのです。つまり、少なくとも現時点では、前身か後退か、変化無しか、全くわからない状況にある――というわけです。
これをポジティブに捉えるなら「前進する可能性が出てきた」とも言えます。ですが、ネガティブに捉えるなら「取り返しのつかない状況を招く恐ろしいリスクに直面している」とも言えます。
つまり、今回の首脳会談が是か非かは、これからの対露交渉と、それによって決定される「新しい制度」の中身にかかっているわけです。
ロシアが自国の領有権を放棄する「新しい制度」を認めるはずがない
ところで、あるTV番組でご一緒した高橋洋一先生は、この「新しい制度」について、「ロシアが、自分の領有権を放棄するような新しい制度を認めるはずなどない」と断定しておられました。当方としては、総理が既に「新しい制度で共同経済活動を行う」と明言している状況を踏まえ、「(その主張が正しい可能性はもちろん否定できないが)もし仮にそれが正しいのなら、共同経済活動は絶対に正当化できない!」という趣旨の発言をいたしましたが――なぜ当方がそういう主張したのかは、ここまでお読み頂いた読者の皆様ならご理解いただけますよね。
いずれにせよ――北方四島が返還される状況を創出するためには、少なくとも上述の状況認識だけは必須であると筆者は考えます。とりわけ、「新しいアプローチ」なるものに踏み出す以上、上記認識を持たずに、今回の首脳会談を賞賛したり否定したりするのは愚の極みであると、筆者は考えます。だからこそ、筆者としては本稿をあえて取りまとめた次第です。
北方領土が返還される日が訪れることを心から祈念しつつ――今日はこれにて終わりたいと思います。
『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2016/12/20号より
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