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第二次朝鮮戦争を引き起こす、中国「人民元建て原油先物取引」の衝撃=高島康司

確実に進んでいるアメリカ覇権の凋落

この動きが何を意味するかを、最近の世界情勢全体を俯瞰した視点から見て見よう。

アメリカ・ファーストを掲げる孤立主義的なトランプ政権が成立してからというもの、既存の国際秩序を揺るがす大きな変化が相次いでいる。地球温暖化防止のパリ協定からの一方的離脱、TPPからの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)米韓FTAの見直し、北朝鮮への戦争も辞さない圧力などである。

また米国内でも、反トランプ派の抵抗運動は凄まじく、全米各地で暴力的な抗議運動が発生している。これからトランプ政権下のアメリカがどうなって行くのか、不安に満ちた目で行く末を見ている人は大いに違いない。

一方、そのような表層の出来事の背後で確実に進んでいるのが、アメリカの覇権の凋落である。いまでも日本では、トランプから別な政権に移ると、これまでのように世界のリーダーとして機能する強いアメリカに戻るのではないかという希望的な観測をときおり見かけるが、いま進行している覇権の凋落を見ると、それはほぼ確実に不可能であることが分かる。

シリア内戦の終結とロシア・イラン同盟の拡大

アメリカの覇権の凋落ぶりを示す大きな出来事は、シリア内戦の終結アサド政権の存続である。以前の記事で何度も書いたが、シリア内戦の真実は中東における天然ガスと石油の覇権を巡る争いであった。

パイプラインで供給されるロシア産原油と天然ガスへの依存度を低めたいEU諸国と、ロシアのヨーロッパへの影響力拡大を恐れたアメリカは、ロシアには依存しないエネルギー源を確保するために、カタールやサウジアラビア産の原油と天然ガスを、シリアとトルコを経由してヨーロッパに供給するパイプラインの建設を2009年にシリアのアサド政権に持ちかけた。

だが、ロシアとの同盟を重視するアサド政権はこれを断った。一方2018年にピークオイルを迎え、原油と天然ガスの生産量が減少するロシアは、これに対応するために、ロシアの同盟国であるイランと、その強い影響下にあるイラクの原油と天然ガスを、やはりシリアを経由して地中海の海底パイプラインから南ヨーロッパに輸送する計画を立案した。シリアのアサド政権はロシア案に賛同し、翌年の2011年からこのパイプラインの建設が始まった。

シリアで内戦が勃発したのはちょうどこの年である。カタールからシリアを経由するパイプラインの建設を諦めない、アメリカならびにサウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国の同盟国は、内戦でロシアとの関係の強いアサド政権を打倒し、親米派の政権の樹立を目指した

他方ロシアとイランはシリアを軍事的に支援し、2015年9月からはロシア軍による本格的な軍事介入が始まった。この結果、シリア内戦はアサド政権の実質的な勝利でほぼ終結した。これで、アメリカとその同盟国が推進しているパイプライン計画は完全に失敗した。これからは、イランの協力で建設されるロシアのパイプラインがシリアを通ることになる。

シリアにおけるアメリカの敗北は、中東におけるアメリカの影響力を決定的に弱めた。代わりに影響力が拡大したのは、ロシアとイランである。シリアは完全にロシア・イラン同盟に組み入れられた存在となった。

この結果、アメリカの同盟国である湾岸諸国にも動揺が走り、アメリカを中心とした同盟から離脱し、これまで敵対関係にあったロシアとイランに接近する国も現れた。カタールである。この動きの結果、カタールがサウジアラビアなどの同盟諸国から断交された事件の記憶は新しい。

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