現実世界の経済は全く「均衡」していない
この「均衡」というアイディアは、一般的な自然科学で用いられる概念ですが、経済学においても「最も重要な概念」の一つとして活用され続けています。というより、今の経済学から「均衡」を取り除くと、お吸い物から出汁を取り除いちゃうようなもの――になってしまうと言えるほどに、「均衡」は今の経済学で重視されています。
要は、世の中は様々な「方向を持つ力」があるが、それが押し合いへし合いしているうちに、一つの安定的な「均衡状態」に落ち着くようになることがある。そして現実の経済もそうなっているはずだ――と、今の主流派経済学は「想定」しているわけです。
しかし、これはあくまでも「想定」に過ぎず、現実がそうなっているかどうかは全く別の話。というか現実の世界では、経済は全く均衡していないということが実に様々な研究で示されています。
代表的なものは、
・「限定合理性」に基づく批判(経済が均衡してしまうほどに、人々は合理的では全くない)
・「複雑系経済学」に基づく批判(様々な要素が存在する以上、どんな状態になっていくか全く読めない)
・「収益逓増」に基づく批判(時間がたてば、均衡に向かって徐々にシステムの運動が減衰していく――とは限らない。中野さんの『富国と強兵』にはこのあたりの批判が詳しく書かれています)
など、実に様々なものがあります。
まぁ兎に角、主流派の経済学は、現状の経済の状態というものは「均衡状態」に収れんしている(あるいは、そのあたりに落ち着いている)ということを前提にしているわけですが、世の中は全くそんなことにはなってない――ということが、実に「精緻」に「科学的」に明らかにされているという次第です。
…というか80年代までの日本経済の台頭、90年代のバブル崩壊とデフレ化、2000年代のリーマンショックや中国経済台頭――などの波乱万丈の世界経済の動向を見れば、経済は「均衡」などしておらず、めまぐるしく変化し続けていることは一目瞭然ですよね。
さらに言うと、均衡しているなら需要と供給も均衡していて、デフレギャップ=需要不足なんて存在するはずがない――ということになるのですが(そして実際、経済官僚の中にもこう堅く信じて疑わないのが多くて、日々、辟易していますw)、多くの企業は今、客不足(=需要不足=デフレギャップ)に悩まされているのが実態です。ですから、その点を考えるだけでも、均衡仮説というものがいかにオカシナ代物か、ということがおわかりいただけると思います。