楽天の「特に有利な条件」をもって発行されるストックオプション
楽天のケースでは、特に有利な条件をもって発行されるストックオプションが「株式報酬」として提供されています。
(5) 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額
新株予約権1個当たり1円とする。
ヤフーのケースとは異なり、楽天の場合は、新株予約権1個(=100株)につき1円で行使できるという、要はほぼ無料で行使できるストックオプションを提供していることになります。
ストックオプションの仕組みの詳しい解説はここでは割愛しますが、要は将来のある決められた期間に楽天の株式100株分を1円で購入することができる権利が付与されることになります(付与時点での株価を約780円とすると、仮に株価が一定だとすれば、将来の時点で、(現時点で)78,000円に相当する分の株式を1円で購入できる権利がもらえるということです)。
受け取る従業員から見ると、譲渡制限がついた株式を受け取るのと1円で100株を得ることができるストックオプションを受け取るのとで、経済的には事実上、差異はあまりありません。
楽天の場合は、1,261人の社員に対して、31,369個のオプション、つまり約300万株のストックオプションが付与されることになります。
ストックオプションを付与したタイミングでの株価を約780円とすると、合計で約24.5億円程度の株式報酬になります。
従業員1人当たりに換算すると、約194万円程度の株式報酬という計算になります。
単純にYahooと比較すると、対象者が役楽天の方が12倍程度多い計算になりますが、従業員1人当たりに直すと、Yahooの約2/3程度という計算になります。
楽天のストックオプションの行使期間は? いつになったら株に転換できるの?
Yahooの場合は、生株をそのまま従業員に渡すため、譲渡制限という形になっていました。楽天の場合はストックオプションを付与することになるので、実際にそのストックオプションはどのような条件で、いつ行使できるようになるのでしょうか。以下に詳しく見ていきましょう。
(6) 新株予約権の行使期間
新株予約権発行の日(以下「発行日」という。)の1年後の応答日から10年後の応当日までとする。ただし、権利行使期間の最終日が当社の休日に当たるときは、その前営業日を最終日とする。
このストックオプションは、発行された日の1年後から10年後まで、計9年間有効なストックオプションになります。ただし以下のような細かい制限がついています。
【4】新株予約権者は、以下の区分に従って、新株予約権の全部または一部を行使することができる。
1)発行日からその1年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権のすべてについて権利行使することができない。
2)発行日の1年後の応当日から発行日の2年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の15%について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
3)発行日の2年後の応当日から発行日の3年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の35%(ただし、発行日の2年後の応当日までに新株予約権の一部を行使していた場合には、当該行使した新株予約権を合算して、割り当てられた新株予約権の35%までとする。)について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
4)発行日の3年後の応当日から発行日の4年後の応当日の前日までは、割り当てられた新株予約権の65%(ただし、発行日の3年後の応当日までに新株予約権の一部を行使していた場合には、当該行使した新株予約権を合算して、割り当てられた新株予約権の65%までとする。)について権利行使することができる(権利行使可能となる新株予約権の数に1未満の端数が生じた場合は、これを切り捨てるものとする)。
5)発行日の4年後の応当日から発行日の10年後の応当日までは、割り当てられた新株予約権のすべてについて権利行使することができる。
これを簡単に要約すると以下のようになります。
・1年後以降、2年目最終日までは、15%分を行使できる
・2年後以降、3年目最終日までは、さらに20%(計35%)分を行使できる
・3年後以降、4年目最終日までは、さらに30%(計65%)分を行使できる
・4年後以降、10年目最終日までは、さらに35%(計100%)分を行使できる
要は、ストックオプションが付与されてから1年以内に退職すると全く行使できません。
付与されてから1年経過すると、15%分が行使できるようになります。2年経つとさらに追加で20%分が行使できるようになります、という風に、4年が経過するまでは、付与された全てのストックオプションが行使できないような制限がついています。
なぜこのような譲渡制限や、ストックオプションの行使に制限をかけているかと言うと、従業員が退職しにくくするためです。
Yahooの場合においては、少なくても3年は在籍してほしいというメッセージが強烈に発信されていますし、楽天の場合においては、少なくても1年は在籍しないと従業員側が損をするようになっており、長く在籍すればするほどたくさんのストックオプションを行使できるようになっています。
つまり、従業員が長く会社に留まる経済的なインセンティブを与えているわけです。