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資金需要が回復しない日本。金融緩和策よりも必要なのは成長戦略=川瀬太志

デフレからの脱却と富の拡大を目指すアベノミクスの「3本の矢」。第1の矢、『大胆な金融政策』でとられているのが、金融緩和を行い、お金の流通量を増やすという戦略です。しかし、報道からは景気が良くなっている実感はないという市井の声が上がっているのも事実。これはなぜなんでしょうか? 中立的な立場から資産づくりをサポートするメルマガ「ハッピーリッチ・アカデミー」を配信する川瀬太志さんが解説します。

さらなる金融緩和は有効か?銀行貸出にみる今のお金の回り方

銀行貸出は拡大しているが……

よく言われていますように、企業向け融資や住宅ローンなど銀行の貸出が増えてくると、世の中にお金が回るようになって本格的に景気が良くなっていきます。意外に思うかもしれませんが、実はすでに銀行の貸出姿勢は積極的になっています。

日銀が8日発表した8月の貸出・預金動向(速報)によると、全国の銀行(都市銀行、地方銀行、第二地銀)の貸出平均残高は前年同月比2.8%増の426兆3420億円と、伸び率は2014年11月以来9カ月ぶりの大きさだった。企業のM&A(合併・買収)や不動産関連向けを中心に貸出が伸びた。
出典:銀行貸出残高、9カ月ぶり高い伸び 8月2.8%増(日本経済新聞)

これは「高い伸び」がニュースになっているのであって「貸出が増えた」ことがニュースになっているのではありません。実は、銀行貸出は48か月連続で前年同月比を上回っています。もう4年間もずっとじわじわと増え続けているのですから、「銀行貸出が増えた」くらいではニュースにもならないわけですよね。

それくらい、銀行は「積極的に融資を拡大する」という姿勢になっています。

通貨供給量を増やそうとしても「日銀当座預金」の残高が増えるだけ

これは政府と日銀が推し進めている「金融緩和」の効果が出ているのかもしれません。

ここで金融緩和についてのおさらいです。今の日本の金融緩和は、世の中に出回る通貨の供給量を増やすことを狙いにしています。通貨の供給量をモノの供給量以上に増やすことで緩やかなインフレ(物価の上昇)をおこして、デフレから脱却しようということですね。

通貨供給量を増やすためには、よく「日銀がお金を刷ればよい」などと言われますが、実際に紙幣をばんばん印刷しても世の中にお金は出回りません。

まず、民間の銀行が保有している国債を日銀が買い取って、その代金として新たに発行した円をその銀行の「日銀当座預金」に入金します。しかし、民間銀行の日銀当座預金の残高が積み上がるだけでは世の中に出回る通貨の供給量は増えません。

国債を売って銀行が手にした資金を日本の企業や団体、個人に向けて貸出をしてはじめて世の中にお金が出るのです。つまり、政府と日銀が行っている「大胆な金融緩和」がデフレ脱却にまでつながっているかどうかは、まずは銀行貸出がどれだけ増えているかをよく見ておかないといけないのです。

では、民間銀行の貸出が4年にもわたって増え続けている今、はたしてデフレから脱却して、マイルドなインフレ状態になってきたでしょうか?

残念ながらなっていませんね。相変わらず物価上昇率はゼロ近辺を行ったり来たりしています。なぜかというと、銀行貸出が「増えた、増えた」と言っても、政府・日銀が期待している水準からみればまだ全然足りていないからです。

日銀当座預金の残高は、金融緩和が本格化した2013年に100兆円を突破して半年後の2014年6月には史上初の150兆円越えです。そして、2015年8月末にはなんと231兆円もの残高になっています。前年同月比で52%もの増加です。民間銀行が日銀に置いておかないといけない「法定準備預金」というのがありますが、その金額は民間銀行合計で大体8.7兆円くらいです。8.7兆円を超える額(約222兆円くらいですか)は、世の中に出してもらいたいのに、出て行っていないお金ということになります。

この1年だけでも日銀の供給マネーが52%、およそ80兆円も増えているのに、民間銀行貸出は2.8%、およそ14兆円しか増えていません。全然足りていませんね。

EUでは銀行がお金を使わないと損をする仕組み

こういう数字を見ると、「アベノミクス第1の矢」である「異次元の量的金融緩和」は割と上手くいっているという評価がありますが、まだまだ狙い通りに進んでいないのではないかと思わざるを得ないですね。もっと世の中にお金を回さないといけません。

海外にはこの金融緩和をもっと強烈にやっているところがあります。

欧州の短期金融市場で欧州中央銀行(ECB)による量的緩和策の拡充やマイナス金利の一段の引き下げを織り込む動きが広がっている。原油安を背景にインフレ見通しが悪化し、9月のユーロ圏消費者物価指数は再びマイナス圏に沈む可能性が出ている。(中略)

短期金利の指標であるユーロ圏の翌日物銀行間取引金利は21日、マイナス0.145%をつけ、約3カ月半ぶりに過去最低を更新した。その後も最低水準での推移が続く。
出典:欧州短期金利、最低に マイナス0.145%、追加緩和織り込む(日本経済新聞)

EUでは「マイナス金利」です。お金を使わないと普通は金利が付いてお金が増えるのですが、マイナス金利の場合は、お金が減るのです。

ECB(欧州中央銀行)は、余っているECB当座預金残高に対し「金利を徴収する」という政策を採っています。これだと銀行はお金を使わざるを得ない方向に向かうでしょうね。

しかし、日本の日銀当座預金には逆に0.1%の金利が付いています。2008年までは日銀当座預金は金利ゼロだったのですが、この金融緩和をするにあたり、銀行が国債を買い入れて日銀に売りやすくするために金利を付けた、という事情があります。これだと、EUとは違って「余っているお金を貸出に使わないと」という強烈なモチベーションはかからないですよね。

銀行は貸したいのに借りてくれない。資金需要不足が問題

つまるところ、まだまだ日本経済の資金需要が回復していないということなのです。商品やサービスがよく売れている、だから在庫を増やしたい、原材料を仕入れたい、工場の設備を更新したい、新たに店舗を出店したい、人を採用したい、家を買いたい……こういう時にお金が必要になります。

これが資金需要ですが、この資金需要がまだ十分に盛り上がっていないのでしょう。銀行としても「貸したいけど借りてくれるところがない」というのが現実です。

今また更なる金融緩和策も検討されているようですが、問題なのは「その先」なのです。経済を成長させる戦略を具体化し、政府も需要を喚起して、民間の資金需要を高めること。これなしに景気の本格的な回復は望めませんね。政府も、民間銀行も、企業も、私たち個人も成長を志向して行動していかないといけないということだと思いますね。

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ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』第227号より一部抜粋
※太字・見出しはマネーボイス編集部による

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