アメリカの強い反発
このような成果を上げているロシアに対して、「アサド政権」の打倒を最大の目的としているアメリカとイギリスは激しい怒りをあらわにしてロシアを非難している。
アメリカは、「ロシアの空爆は『イスラム国』の拠点を外しており、アメリカが支援しているイスラム原理主義ではない反政府勢力の『自由シリア軍』や、多くの民間人が犠牲になっている」と主張している。
ちなみに「自由シリア軍」とは、「アサド政権」に反発してシリア政府軍を離脱したシリア政府軍の将兵が結成した組織である。
これに対してロシアのラブロフ外相は、「自由シリア軍」のメンバーのほとんどは「イスラム国」に寝返り、現在は組織としては存在していないとしている。
事実、ラブロフ外相の発言の少し前に米上院軍事委員会で行われた公聴会で証言した米中央軍のオースティン司令官は、米軍が訓練した54名の反政府勢力の戦闘員のうち、多くが「イスラム国」に寝返ってしまい、4名から5名しか残っていないと証言した。ニューヨークタイムスが掲載した記事でも、アメリカの反政府勢力の支援は完全に失敗したとされている。
また民間人が犠牲になっているとのアメリカとイギリスの主張が根拠にしているのは、「シリア人権監視団」というイギリスに本部があり、シリア国内からの情報を根拠に「アサド政権」の人権弾圧を告発している団体の主張である。
この団体は亡命シリア人のラミ・アブドル・ラーマンという人物が設立した組織である。会員はこの人物一人がいるのみだ。
多くの欧米のメディアはこの組織が提示する民間人死亡者数をそのまま報道しているが、フランスの通信社は、「この団体が信頼できない組織だということははっきりわかっているが、この世界は競争が激しいから、われわれはそれでも彼らの数字を流し続ける」と言い、十分に信頼できない組織であることを認めている。
「イスラム国」と一体化した「自由シリア軍」
現在欧米とロシアの間で激しいプロパガンダ戦争が行われており、「自由シリア軍」が存在しているのかどうか、またロシア軍の空爆で多くの民間人の犠牲者が出ているのかどうか分からない。
しかし、フランスの通信社「エイジェンス・フランスプレス」が2014年9月12日に配信した記事では、シリアの首都ダマスカス郊外で「自由シリア軍」と「イスラム国」との間で相互不可侵協定が結ばれ、現在は「自由シリア軍」と「イスラム国」の組織は一体化していると報じている。
欧米や日本では、ロシアの空爆による「自由シリア軍」の被害を報道しているが、もはや「自由シリア軍」は「イスラム国」に吸収されてしまっており、ロシアの言い分の方が正しいように見える。