処刑されたはずの高官が芸術鑑賞、北朝鮮公営メディアが報じる
ハノイでの第2回米朝首脳会談が物別れに終わった後、強制労働キャンプに送られたと報じられた北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長について、北朝鮮の国営メディアは3日、「金正恩朝鮮労働党委員長らとともに2日夜の芸術公演を鑑賞した」と伝えた。
一方、米朝会談の事前交渉で「米国側に取り込まれ」「最高指導者を裏切った」として銃殺されたと朝鮮日報が報じた金革哲国務委員会対米特別代表の名前は、公演鑑賞者の名簿に記載がなかったとされる。
「韓国メディアが報じた北朝鮮高官の処分や処刑の情報が、後に誤りだったと判明した事例はこれまでにも幾度かある」とされるが、処分は3月に行われたことなので、朝鮮日報の報道に誤りがあるとは断定できない。
いずれにせよ、北朝鮮が米国に歩み寄るという線が完全に断たれ、南北統一もなくなった可能性が高いとは言えるだろう。
「南北統一」の難しさ
2018年6月の米朝首脳会談は、南北の「平和共存と共同繁栄」を目的として、2018年2月の韓国平昌オリンピックに、南北統一旗を掲げた南北統一チームとして参加し、4月に板門店で南北首脳会談を開いた流れの中にあった。そのことは、韓国が北朝鮮を米国側に連れてくることを意味した。
しかしながら、北朝鮮の存在が、在韓米軍、中国軍、極東ロシア軍の緩衝地帯の役割を担っていたことを鑑みれば、南北統一は在韓米軍を中ロ国境にまで連れてくることも意味する。
これは中国、ロシアを大いに刺激することになるので、北朝鮮は両国の理解を得る必要があったはずだ。そこで金正恩委員長は、最も重要な隣国の習近平主席と密に連絡を取った。
ベスト・シナリオは、金正恩氏が、米国から貿易不均衡を叩かれている中国と、米国から経済制裁を受けているロシアと、北朝鮮の地下資源に興味を持つ米国との間に立ち、どの国にとってもWIN−WINの関係を築くことだったかも知れない。
しかしこれは、米中ロが同様の意向を持っていて初めて成り立つ「夢物語」だ。米国は世界の覇権国だ。中国は各地でその覇権に挑戦している。ロシアはどちらの覇権にも警戒心を露わにして、被制裁国を支援している。それでも、対立よりも協調の方が、メリットが大きいのを誰もが知っているので、一縷の望みがある「夢」だった。
その夢を現実に引き戻したのは、意図的かどうかは分からないが、オーストラリアだ。それで、北朝鮮ははっきりと中国側に付くことを表明する必要が生じたのだ。