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「マイナス金利」の現状を、如何にすれば活用できるのか?=藤井聡・京大大学院教授

もちろん、それだけの資金を調達しても、それを支出する先があまり意義のないものであるなら、その国益増進効果は限定的なものとなってしまいます。

だからこそ、その支出内容は、合理的なものでなければなりません。

その意味でも、国土強靭化、地方創生、成長戦略といった安倍内閣が掲げる基本政策を踏まえた「大規模な財政政策」を立案することが何よりも求められています。

とりわけ、今日の状況では「カネを借りて投資をしたい」と考えている「民間主体」に、政府がこの超低金利の状況を活用して安い金利、あるいは実質的な「ゼロ金利」で資金を貸し出してやり、長期的に返却してもらう、というカネの使い方が考えられます。

例えば、JR東海については、名古屋大阪間の区間は金利さえ誰かに負担してもらえるのなら、同時開業も含めた前倒し開業があり得るのではないか、としばしば指摘されています。

そうである以上、名古屋大阪間のリニア開業という大阪、関西の政財界の悲願を、このマイナス金利状況で創出された状況を活用して、成就させることは決して不可能ではないでしょう。

あるいは、昨今にわかに注目を集めている「整備新幹線の第二期プラン」を考える上でも、このゼロ金利状況は大いに活用できます。

例えば、このゼロ金利状況を使って、次のようなアプローチで、整備新幹線の財源を創出する、という方法が考えられます。少々専門的にすぎますが、重要な議論ですので、細かく記載しておきたいと思います。

(1)現在政府が保有している新幹線路線に関する何らかの「ビジネス」をJRと運輸機構と共に成立させる(例えば、JRが新幹線を買い取るビジネス、JRが新幹線を30年間“レンタル”するというビジネス、等)。

(2)JRが新幹線を使ったビジネスのための資金(買い取り料あるいはレンタル料の一括払い料金)を、政府がゼロ金利(あるいは超低金利)で貸し出す(ただし、政府は、その資金を、国債(これは要するに「財投債」ということになります)を発行する形でゼロ金利あるいは超低金利で調達する)。

(3)政府からJRに貸し出された資金が、「運輸機構」にJRから支払われる形で払い込まれる。

(4)運輸機構は、こうして手に入れた資金を元手として、(これにこれまでのスキームで調達した資金を加えて)新幹線の新規路線を作っていく。

(5)JRは政府に、毎年借金を返済していく。

このスキームでは、あらゆる人々が利益を得ることができます。

・日本国民:新幹線が整備されると同時に、内需が拡大し、デフレ不況が緩和・脱却される。

・財務省:一時的に国債発行額が伸びるが、その返済は全てJRが負担するため、長期的視点から言って、財政悪化の懸念はない(しかも、ここで発行する国債は「税金での返済」とは無縁の国債であることから、プライマリーバランスの計算対象外にできます!)。

・JR:ゼロ金利で資金を調達でき、かつ、新幹線を活用したビジネスを展開することが可能となる。しかも、JRはこの借金返済によって、毎年得られる過剰利益を圧縮でき[ると共に、資産売却ビジネスであるなら、資産を所有することで減価償却が計上可能となり]効果的な節税が可能となる。さらに、新規路線建設を通して並行在来線が分離され、営業が質的に改善される。

いずれにせよ、この「ビッグビジネス」を、今日成立させることができるのも、今「ゼロ金利」の状況があるからです。

もしも金利が高ければ、政府が発行する国債の返済を全てJRに賄ってもらうことは難しいでしょう。そもそも、JRがその高い金利を受け入れるのは、それ以上に「利益率」があると見通すからです。ですが、これから作る地方の新幹線は、東海道新幹線や山陽新幹線程に儲かるものではありません(実際、かつてはこうしたビッグビジネスは、東海道新幹線等では、余裕で成立していました)。したがって、金利が高ければ、JRがその「ビジネス」を拒否する可能性が高いのです。

Next: マイナス金利を活用した「国益に叶うプロジェクト」を

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