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アベノミクスを牽引してきた成長株の伸びは一服?これからは割安株が買いの背景とは=山崎和邦

長期投資、同族企業が狙い目?

これは日経ヴェリタス紙12月1日号の2ページの前面にわたる特集の大見出しである。この見出しの意味は大いに一理あると、筆者は思っている。
※参考:長期投資、同族経営が狙い目?‐日本経済新聞(2019年12月1日公開)

筆者自身が中長期投資の銘柄を選ぶ場合に必ず大株主を見る。創業者が上位株主や取締役としているかどうかを見る。所謂、同族企業だ。自分が会社員として勤める場合、筆者は同族企業を避けてきたし、筆者の所属した野村證券も、その後の三井の会社も同族企業ではなくパブリックな会社だった。その方が「やりがいがあるし、会社員としての生活はいい」と思っているからだ。ところが、投資家の立場から見ると全く違う場合が多い。

同族企業は大成功するか大失敗するかであり、また破綻価格にいる場合に破綻はさせないだろうという判断にもなる。同族企業は我が家のために長期戦略を立て、素早い経営判断を行い、経営効率の高さを強みにすることができる。

それに対してサラリーマン経営者は会議をして決める。そして株主総会にかける。株主総会も取締役が大株主ではないから簡単ではない。13時間半に及んだ史上最長のソニーの株主総会、4時間半に及んだ野村證券の平成9年の株主総会のようなことになりかねない(筆者は両方とも株主とて出席していた)。

判りやすい例の代表は、永守さんの日本電産である。随分前のことであるが、日本電産が大幅減益を発表するという話が(インサイダー情報ではなく)事前に伝わっていた。そこで筆者は明日の寄り付きで大幅に暴落したらこれを買おうと決めていた。何故なら、サラリーマン経営者ならば大幅減益を発表する前に四半期予想ごとに小幅な減益を繰り返し、大ニュースになることを避けるだろう。

ところが、永守さんの独裁会社(話しに聞くところによると必ずしも独裁ではなさそうだが)は「いっぺんにウミを出し尽くしてその後は大幅増益になるに違いない。ウミを出し尽くして暴落したところが買いだ」と考えたのだ。この考え方は大体的中する。ところが筆者のような考え方の人が多かったせいか、翌日の大幅減益発表の時には大幅に株価は上がってしまった。それで筆者は買いそびれた。そこで買っていれば株価は3年で15倍になった。(もちろん、もし買っていても筆者は15倍までは持たなかっただろうけれども)、具体的に言えば、96年の2,000円割れが99年には3万円になった。このようなものである。

永守さんの話を直接聞いたことがある。多分、IRの会場だったと思う。この会社はこの社長がいるから世界一の精密小型モーターの会社に一代で仕上げた、たいした会社だ。だが、この会社に勤める気には全くなれなかった。「この会社に勤めていたら社員はさぞかし大変だろうなあ」と思って帰ってきた。「会社員としてのやり甲斐や居心地の良さや精神的な幸福度」と「投資家・株主が期待するところ」とは一致しない

このことを筆者は銘記したいところだ。同族会社には素早い経営判断と我が家の長期の幸福のために長期視点で利益を追求していくことができる。サラリーマン経営者のように期限を決めているわけではない。期限を決めての責任ではない。そこで筆者は、本稿に一度既述したことがあるが、筆者は野村證券時代に、総研にいる友人に「同族企業とパブリックな企業に二分して同族企業の株価とパブリックな企業の株価とを同業種内で比較してみたらどうだ、それを調査してみてくれ」と頼んだところ、彼は、「とんでもないことだ。同族企業の株価の方が高いに決まっている。同業種ならば同族企業の株価の方が高いに決まっている。そんな統計を出せば法人部や金融法人部が顧客としている相手はだいたい大企業で経団連銘柄が大手だ。経団連銘柄はほぼ全部がパブリックな企業だ。だからそんな統計を出したら法人部に恨まれる」と言下に断られたことがある。この話しは本稿でも既述したことがある。

これも銘柄選択の一つの視点である。所謂株式評論家という稼業でメシを食べている人はこういうことは言いたがらない。筆者は株式評論でメシを食べているわけではない。二本の箸でメシを食べている。

欧米にも同じ例はあるようだ。筆者は同族企業の中堅証券会社の代表取締役会長が、今から55年前に新入社員として野村證券に入ってきた時から家族ぐるみの親しい間柄である。彼に月に2回ぐらいは会うが、彼の話しの隅々に、我が一族のために長期的利益損失を考える。我が一族のために社員が重要である。顧客第一ではない。社員が第一でもない。顧客を重視するために社員を重視するのだ。そして社員を重視するために一族経営者を重視するのだ。顧客・社員・一族、これら皆が運命共同体なのだという意味のことが言葉の隅々ににじみ出ている。現に、その企業の株価は業界で一番の高株価だ。

顧客第一主義というのは間違いだ。顧客第一のために社員第一主義とする。社員第一主義のために経営者第一主義とする。そこで三者は結果的に運命共同体となるのだという考えである。社員の居心地がいいかどうかということはまた別として、株主になるならば代表取締役や企業や経営者や大株主の構成をある意味では重視しなければいけないと思っている。

Next: 創業オーナーがメリットがあるだけではない、リスクとなる場面とは…

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