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コーカサス紛争で売られる通貨【フィスコ・コラム】

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「コーカサス」と聞くと、日本との縁遠さや背景の複雑さでつい目を背けてしまいます。が、コロナ禍で世界情勢が流動化するなか、この地域での紛争は危機につながりかねません。実際、当事国と関係の深いロシアとトルコの通貨は大きく下げ、警戒感が増しています。


コーカサス地方のアゼルバイジャン内で、隣国アルメニアの支援する未承認国家ナゴルノカラバフでの民族紛争が1994年の停戦合意以来、最大規模に広がりました。この地域はソ連崩壊の過程でアルメニア人の独立機運が高まり、アゼルバイジャン軍を駆逐。現在も15万人のアルメニア系住民が支配しているものの、国際的にはアゼルバイジャンの一部とみなされるという複雑な経緯があります。


30年近く前から断続的に続く紛争が、なぜ今激化しているのでしょうか。諸説あるなかで、自国の領土であるナゴルノカラバフで長年にわたり実効支配するアルメニア人への不満を募らせたアゼルバイジャン側が先に攻撃を仕掛けた、との見方が最も有力です。アゼルバイジャン、アルメニアの両国ににらみを利かすロシアが目下、ベラルーシ大統領選の混乱などの対応に追われていることが背景にありそうです。



この紛争では、トルコがアゼルバイジャンを後押ししていることが問題を複雑化させています。トルコはアゼルバイジャンとはエネルギー輸送でつながりを持っていますが、アルメニアに対してはオスマン帝国時代の大虐殺の歴史的因縁から関係は険悪です。一方、ロシアとは2010年代後半に接近したものの、シリアやリビアの内戦をめぐり支援先が異なることで次第に歩調を合わせられなくなってきました。


トルコは北大西洋条約機構(NATO)に、アルメニアはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にそれぞれ加盟しており、欧米対ロシアの構図になりやすい面もあります。アゼルバイジャンとアルメニアの紛争がさらに悪化した場合、バクー(アゼルバイジャン)−トビリシ(ジョージア)−セイハン(トルコ)のBTCパイプラインでの安定的なエネルギー輸送も危ぶまれ、原油相場などへの影響が警戒されます。


不透明な情勢を受け、アゼルバイジャン通貨マナトの下落は限定的であるものの、アルメニアドラムは弱含み、両国と国境を接するジョージアのラリーは乱高下。紛争を仲裁する立場のロシアのルーブルは対ドルで今年3月以来の安値に一時下落しています。ロシアは反体制派ナワリヌイ氏の毒殺未遂疑惑で国際的に孤立化しつつあり、ウクライナ問題をめぐり欧米からの制裁強化も下押し要因となっています。


さらに深刻なのはトルコリラ。地中海沖のガス田開発によるギリシャをはじめ欧州連合(EU)諸国や沿岸の周辺国との対立にコーカサス紛争が加わり、対ドルでの下落にまたしても歯止めがかからない状況に陥っています。トルコは中銀による2年ぶりの利上げ効果もむなしく、リラ急落危機への懸念を弱められません。ロシアの仲裁はリラ安を止められるでしょうか。


※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)
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