中国で電気自動車(EV)の売行きが2020年後半から力強く伸びています。コロナ禍でマイカー需要が伸びたこともありますが、メーカー各社の戦略が当たったことも大きな要因です。中国でEVシフトが加速している理由を知れば、日本でも少し遅れて来るだろうEVシフトを先取りできるはずです。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年3月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
中国で電気自動車が「突如として」売れ始めた
EV(電気自動車)については、当メルマガでも何回か扱っています。vol.006で扱ったのは、中国のEVシフトに黄色信号が灯り、中国政府が設定した目標達成が難しくなっているという話でした。その後、コロナ禍が起こり、vol.049では、Z世代(95年以降生まれ)がEVに興味を持ち始めているという話をご紹介しました。Z世代は、EVもスマホの延長であるデバイスのひとつとして見ているという内容でした。
それが2020年後半から、EVの売行きが力強く伸びています。
ひとつは五菱の宏光MINI EVのヒットです。日本の軽自動車並みの小型EVですが、50万円を切る価格でデザインも愛らしいことから、生産が追いつかないヒット商品となっています。
それだけではありません。テスラ、BYD、ニーオといった中級車から高級車の価格帯のEVも売れ始めているのです。
理由の大きなものは、スマホの延長のデバイスとしての機能に対応していったことです。オートパイロット、音楽サブスク、SNSなどが車内でも楽しめる。このようなスマホデバイス的なEVが売れています。
中国メディアは「突如として」という表現を使って報道をしています。
その大きなきっかけになっているのが、コロナ禍で人々の移動に対する考え方が変わったことです。目標達成が難しくなっていたEVシフトにも大きな追い風となっています。
今回は、突如として売れ始めたEVについてご紹介します。
EVのヒット商品が続々
中国の電気自動車(EV)が売れ始めています。多くのメディアが「突如として」という言葉を使って報道するほど、意外なことだったようです。
日本でも名前を知られるようになった上海通用五菱(ウーリン)の宏光MINI EV(ホングワン)がかつてないヒット商品となっています。サイズは小さく、日本の軽自動車並みですが、価格が3万元(約49万円)ということもあって、製造が追いつかない人気ぶりになっています。また、デザインが愛らしいことから、改造をする人たちも現れて、ちょっとしたブームになっています。昔のチョロQの改造を実車サイズのEVでやっているような感覚です。
これだけであれば、このメルマガの「 vol.006:中国のEVシフトは成功なのか。それとも失敗なのか?」でも、微型車(マイクロEV)がEV市場を牽引し、広西チアン族自治区の柳州市では、マイクロEVを優遇する政策を打ち出し、新エネルギー車(EV+プラグインハイブリット+再生可能エネルギー車)の比率が全国平均の5倍になっているという柳州モデルについても触れました。
柳州市と同じように、人口増加のペースに公共交通の整備が追いつかない地方都市では、柳州モデルを導入する例が現れ始めています。
このような小型EVは、歩く代わりに使う乗り物という意味で「代歩車」と呼ばれるようになっています。面白いことに、電動スクーターも代歩車と呼ばれます。小型EVと電動スクーターは同じカテゴリーの乗り物と見られているようです。
しかし、2020年後半からのEVの好調な売れ行きは、中級車から高級車のレンジでも起きています。
人気なのは、テスラ、BYD、上海蔚来汽車(ニーオ)の3社で、テスラは数回にわたって価格を下げる改定を行い、人気の的になっています。また、ニーオでは2021年1月の新車ナンバー交付台数が7225台となり、1年前から352.1%も伸び4倍以上になりました。ニーオでは、これで6ヶ月連続して交付台数の記録を更新中です。