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韓国「デジタル先進国」6位の虚像。鉄道無賃乗車30万人…日本に学ぶ現場型デジタル化=勝又壽良

韓国は「世界デジタル競争力ランキング」で6位と高い評価を得ている。日本は31位と大きく差をつけられ、「デジタル後進国」と揶揄される状況だ。しかし、韓国の鉄道に目を向けると、年間30万人超の無賃乗車が摘発されるなど、看板とは裏腹に深刻な課題を抱えている。日本は非接触決済や自動改札の導入で不正乗車を原則ゼロに抑え、現場発の漸進的デジタル化が成果を上げている。理念先行の韓国と、現場重視の日本――その思想の違いが鮮明になっている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

デジタル先進国「世界6位」の韓国…実態は?

韓国は、デジタル先進国として世界6位である。デジタル技術の知識、技術力、未来への準備度などを指標にした総合的デジタル化で、高位にランキングされている。これは、IMD(国際経営開発研究所)が毎年発表する「世界デジタル競争力ランキング」(67カ国・地域対象)2024年版で示された「韓国の実力」である。23年版も6位と不動の強みを発揮している。日本は31位。大きく出遅れているのだ。

韓国が高位にあることから、日本を「デジタル後進国」を見下している。新型コロナ時期に、日本の保健所はデータをFAXで送っていたことが判明。韓国の嘲笑を買うことになった。「反日」の盛んな頃でもあったので、韓国は一段と優越感に浸ったものである。

だが、このランキングは実質的な面での利用実態を見落としている。

日本の「名誉」のために言い添えると、高等教育での教師1人当たりの学生数(3位)、100人当たりの無線ブロードバンドの普及率(2位)、国民と政府間のやり取りを促進するオンラインサービスの活用(1位)、世界のロボットに占めるシェア(2位)である。だが、上級管理職の国際経験(67位)や、デジタルスキルの習得(67位)、企業の俊敏性(67位)などが、総合ランキングで日本を30位代に止まらせた要因だ。企業で働く日本の「おじさん達」が、少し消極的であったのだろう。

いずれにしても、韓国のデジタル化度が、総合的にみて日本よりはるか先を走っていることを認めるほかない。これには、両国にデジタル設計思想で根本的な違いがある結果でもある。韓国は、中央集権的スタイルで国家が先頭に立った。日本は、現場優先の斬新主義を取った。韓国のように上から攻めるか、日本のように下から固めるか、という手法の違いがある。詳しくは、後で取り上げる。

こういう中で、鉄道のデジタル化で日本が、「完勝」した形だ。逆に、韓国のデジタル化には、大きな落し穴のあることがわかった。韓国の公共交通機関において、年間で30万人(1日平均820人)もの無賃乗車が摘発されている事実が明らかになった。実際の無賃乗車は、この何倍もいるであろう。こうして、交通機関の経営が大きな打撃を受けている。

韓国のデジタル化は、「空洞化」しているのでないか、という疑念が浮かぶのは当然だ。

鉄道デジタル化で日本勝利

韓国のデジタル化が世界6位と言っても、内容は極めて穴だらけの脆弱なものであることが想像できる。日本は「JR」をはじめとして私鉄などが非接触のオンラインによって、運賃は即時決済されている。この日本型システムでは、無賃乗車が無理である。改札を飛び越えるという「豪」の者は別として原則、無賃乗車は不可能だ。

韓国は、無賃乗車発見者が30万人もいるのに対して、日本が原則ゼロとはどういうことか。「デジタル先進国」韓国という看板は、中味を精査すると日本こそ「デジタル先進国」と言えそうだ。韓国のデジタル化には、大きな穴がある。この背後には、韓国交通機関が、ほとんど公共機関による運営で合理化経営意識が希薄という特色がある。運賃精算の自動化(デジタル化)には、巨額費用が掛るとしてこれを忌避しているのだ。

一方では、無賃乗車による運賃収入減が、経営を圧迫している。これにより、財政が尻拭いするという本末転倒な事態が起こっているのだ。公共交通機関がデジタル化投資をすれば、回避できる無賃乗車の穴埋めをわざわざ財政が行なっている。不思議な構図が、展開されている。

韓国李政権は8月、「青年・国民・高齢者交通費パス」を26年上半期中に導入すると発表した。『ハンギョレ新聞』(8月22日付)が報じた。政府が、鉄道パスを導入するとはただ事でないのだ。切羽詰まった事情があるのだろう。

通常、高齢者交通費パスは福祉政策の一環としてあり得るが、「青年・国民」まで拡大することに強い違和感が生じる。政府が発表するとは、国が財政負担を負うという意味である。韓国で、何が起っているのか。そこには、政府が無賃乗車による収入減を減らすという世にも不思議なカラクリが隠されている。

Next: 経費削減で改札を廃止?韓国で無賃乗車が蔓延する裏事情

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