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日本が知るべき「新型コロナの恩恵」いま本当に必要な経済対策とは何か=矢口新

私はその理由を、1989年度に導入された消費税に見ている。1989年度からの税制改革が税収減に繋がったことで、累積赤字と公的債務が積み上がり、日本の社会保障制度を危機に陥らせたと見なしている。本書はそのことを、前図を含めた63枚の図表で解説し、その解決策を提案するものだ。

こうしたグラフは日本の有権者ならすべて目にしたほうがいいと思うのだが、少なくとも消費増税を語る政治家ならば見ているはずだと思いたい。

だから更に消費税を上げるしかないという結論に至るのか、私のように消費税を導入したからこうした結果となったと見るのかを、読者の方々がご自分で判断するべきだと思うのだ。つまり単年度で110兆円超という、税収の2倍を超える財政赤字が意味するものを日本人のすべてが真剣に考えることなしに、日本の社会保障制度がどうして維持できるだろうか?

私は資金運用者だったという仕事柄、40年にもわたってグラフやチャートに親しんできた。グラフを読み解くことには一日の長がある。読者の方々が1つ1つのグラフを理解することの、お役に立てれば本望だ。

2020年9月16日、日本に新しい首相が誕生した。菅義偉第26代自民党総裁が第99代内閣総理大臣となった。自民党の総裁選中、菅氏は「将来的なことを考えたら行政改革を徹底した上で、国民にお願いして消費税は引上げざるを得ない」と話していた。少子高齢化を踏まえ、社会保障の財源には必要だと訴えたという。

消費税率引上げが必要だというのは、総裁選に出馬した他の2候補も同様で、日本の首相には誰がなっても、消費増税が既定路線だったことになる。実際、前任者の安倍晋三前首相は在任中に二度も消費税率を引上げた。

とはいえ前図でも明らかなように、消費税を導入した翌年が税収のピークとなり、後述するが税率を5%に引上げた1997年度が経済規模のピークとなった。こうして経済が低迷し、税収が減ったことが、社会保障制度がぐらついている主因だと言える。最終章の「崩壊前夜の社会保障制度」を読んで頂ければ分かるが、ほとんどの国民を支えている日本の社会保障制度はこのままでは維持できる見通しが立たないのだ。

消費税のどこが悪いか? 政府財政は国民の税金で運営されている。政府はインフラを整備し、安全に事業が行える環境を整えて、国民が生産によって作り出した富の分け前を税金として徴収する。この時、生産の成果に応じて徴収するのが所得税や法人税だ。消費税はどうかというと、秋の実りを待つことができずに、種や苗の段階で10%を徴収するようなものなのだ。これでは、実りのもとを取り上げられたことで生産が低迷し、かえって税収が減少する。

多くの人々は消費増税の不満を口にし、割引セールには出かけるにも関わらず、消費税関係の本を読もうとはしないようだ。おそらく、消費税というものに誤解があるのではないだろうか? 

とはいえ、税制は国の土台だ。土台が腐っているのに、行政改革で雨漏りや風除けだけを修理しても無駄になるのだ。そこで多くの図表をつかって、グラフを見るだけでも理解がすすむように心掛けた。より多くの人々が消費税を理解しないと、日本は良くならないからだ。

前首相の安倍氏は連続在任2822日、第一期と合わせれば在任通算3188日と、共に歴代最長の記録を塗り替えた。このことは、過去2、30年の日本経済がパッとしないとすれば、歴代最大の責任があることを意味する。とはいえ、アベノミクス下の景気回復期間は71カ月と、戦後最長とされた「いざなみ景気(2002年2月~2008年2月)」の73カ月にあと2か月に迫る長さだった。

もっとも、いざなみ景気もアベノミクスも、共に落ち込んだところからゆっくりと時間をかけて回復しただけで、後世に誇れるものを残したわけではない。それどころか、今後の日本にいくつもの大きな課題を残すことになった。

菅首相は、そうした歴史に残る前首相の課題を引き継ぐことになった。どんな課題か、思いつくままに列挙してみる。

1. 膨大な累積財政赤字
2. 膨大な公的債務残高
3. 税収増が見込めない税制
4. このままでは事実上崩壊する社会保障制度
5. 少子高齢化対策
6. ほぼ限界にまで緩和した状態の金融政策(残された政策は中立か引締め)
7. 消滅した短期金利商品
8. 機能を失った国債市場
9. 30数兆円の日銀の株式保有残高
10. 空洞化、インバウンド頼み、消費増税、コロナ対策でダメ押しした景気悪化
11. 大廃業時代
12. 貧富格差の拡大
13. 米中本格対立を見据えた外交
14. ウィズ・コロナと今後の疫病対策
15. 猛威を振るい始めた温暖化への対策

1つ1つが語りだしたら止まらないような大問題ばかりだ。こうした課題に向き合ってきた安倍氏が連続在任記録を更新したその日に辞任を考えた気持ちが理解できるような気がする。同氏自身が2822日かけて、第一期と合わせれば3188日もかけて悪化させてしまった問題を、残りの任期でどうやれば好転できたというのだろう。その意味では、日本の首相職は官房長官として前政権を支えてきた菅氏が引き継ぐべき「要職」であったと言える。

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