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米国で失業給付が終わっても「働かない人」続出の異常事態。労働力不足とサプライチェーンの寸断が世界恐慌の引き金に=高島康司

失業保険が切れた労働者が働かない?

しかしながら、状況はもっと複雑だ。パンデミックでは説明がつかない労働力不足が発生しているのだ。これはアメリカの例を見ると分かりやすい。

米労働省が9月8日に発表した7月の雇用動態調査で、求人数から採用数を引いた人数は426万人と過去最多を更新した。企業は需要に見合った採用拡大を目指すが、働き手の間では求職に慎重な動きが続いている。人手不足の解消は見通せず、景気回復の足かせとなっている。

7月の求人数は1,093万人と過去最大だった6月を上回った。一方、採用数は6月より16万人少ない666万人にとどまった。医療や外食、小売店、製造業など幅広い業種で人手不足が強まっている。このため個人経営の小売店や外食では、オーナーがレジ打ちや調理、皿洗いをしているとの報告もある。

人手不足になっている理由は、今年の始めからバイデン政権が実施した約200兆円もの経済対策である。これには手厚い失業給付の支給が含まれており、低賃金の労働者では給付の金額が給与を上回っていた。働かなくても十分に生活できるような状況になっていた。

このような状況であれば、あえて働く必要はない。当然いろんな産業分野で人手不足は発生する。

しかし、いまの人手不足は手厚い給付では説明がつかないのだ。米失業保険の拡充は9月5日までにすべての州で打ち切られた。すでに失業保険の拡充は7月までに約半数の州が打ち切ったが、拡充を続けた州と比べ、期待されたほど雇用は伸びなかったのである。

つまり、失業給付が打ち切られても人々は働いていないのだ。コロナの流行を機に仕事や生活への国民の考え方は変わっているようで、雇用が回復するかは不透明だとされている。

このように、失業給付が打ち切られても、人手不足が深刻が状況は続いている。米CNBCが主要企業の最高財務責任者に実施した8月の調査では、「求人に見合った人手を確保するのがさらに難しくなっている」との回答は95%に達した。

こうした人手不足が原因で、サプライチェーンが混乱し、物流の遅延は過去最悪となっている。

また、オフィスワークでも人々の退職は続いている。「モーニング・コンサルタント」の調査では、テレワークの選択肢がない場合、39%の従業員が退職を考えているという。また、全米ではわずか28%の従業員しかオフィスに戻っていないのだ。

世界でも同じ状況

人手不足が解消しないという状況はアメリカだけではなく、世界的な現象になっている。欧米先進国でも、パンデミック下で支給されていた手厚い失業給付や支援金は、縮小されているか、またはすでに打ち切られている。そんな状況でも人手不足は続いている。

雇用サービスを提供する「マンパワーグループ」によると、43カ国の約4万5,000社の雇用主を対象とした調査では、69%の雇用主が職務の遂行に困難を感じていると回答した。一方では、欧米を中心とした15カ国の企業を調査したところ、1962年の調査開始以来、最も高い雇用意欲を示している。

ほんの数年前までは、きちんとした賃金を支払おうとする企業には、絶対に求人票が殺到していたが、いまでは誰もが人手不足を口にするようになっている。

人は働かなくなっているのだ。

Next: なぜ人々は働かなくなった?もうコロナ前には戻らない

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