中国にとっては台湾問題も、扱いが極めて難しい問題である。今回の「歴史決議」では、台湾の平和統一が一度だけ出てくるだけで、武力開放するという荒々しい表現は消えている。仮に侵攻した場合、どういう事態になるか。中国は、その弊害が分かっているはずだ。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2021年11月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
「終身皇帝」を宣言した習近平
中国共産党は、鳴り物入りで第3回の「歴史決議」を行った。
過去2回は、毛沢東と鄧小平のまとめたものだ。いずれも終生の政治的実権を保証するものになった。そこへ登場したのが今回の習近平氏だ。これまでの経緯から判断すれば、習氏も「終身皇帝」を宣言する形になった。
「歴史決議」のコミュニケ(声明書)では、最後に次のように結んでいる。
「中国共産党は中華民族の千秋の偉業を志してから100年で、まさに最盛期を迎えている。過去の100年、党は人民、歴史に優れた回答を出した。今、党は国民を団結させてリードし、第2の100年の奮闘目標を実現する新たな試験に向かう道に踏み出した」。
習近平氏が担うこれからの中国は、経済や外交の面で大きな壁にぶつかることは確実である。毛沢東が説いた「実践論・矛盾論」によれば、過去の矛盾がこれから噴出し、それと向き合わなければならないのだ。逃げも隠れもできない。
習氏は、その矛盾と格闘する大役を自ら担うと決断したのだ。
習近平が解決すべき2つの難題
具体的に言えば、共同富裕の実現。もう1つは、台湾統一問題である。
<共同富裕の実現>
共同富裕は、中国の特色ある社会主義として中国共産党の専売特許になっている。だが、中身はゼロである。現実は、米国以上の所得不平等(高いジニ係数)という惨憺たる有様である。
高い経済成長の果実は、複数の住宅保有という形で共産党幹部の懐に入った。政治権力を笠に着た独断的行為は、民主主義社会おいてあり得ない現象である。
それが、中国では正当化されているところに、この社会の後進性がよく表われている。
共同富裕の実現は、共産党幹部の既得権をいかに「回収」するかにかかっている。習氏は、それを「終身皇帝」という権威で解決しようとしている。一方で、習氏の権力基盤を突き崩し、脆弱化させるリスクを孕んでいるのだ。
中国のような謀反社会では、必ずや強力な反対派が暴力を持って立ちはだかるであろう。危険な道というべきだ。
<台湾統一問題>
台湾統一については、双方の話し合いで実現する道は絶たれた。中国が、「一国二制度」を破って香港へ「国家安全維持法」を導入し本土化した結果だ。
それゆえ、台湾へは軍事侵攻による統一しか道が残されていない。
この台湾への軍事侵攻は、中国にとって諸刃の剣である。侵攻と同時に、先進国は一斉に貿易関係を絶つであろう。
そうなると、中国経済は成り立たないのだ。食糧とエネルギーの輸入が止まれば、お手上げである。備蓄すればこと足りるという姑息な手段は通じない。先進国が、事前に見抜いて予防線を張るに違いない。
結局、共同富裕と台湾統一の問題は、中国共産党自身が革命政権から脱しない限り、実現不可能という厳しい現実に直面するはずだ。毛沢東の『実践論・矛楯論』が指摘するように「正反合」である。毛沢東は、中国民衆のために共産主義を克服するとさえ言っている。中国共産党は永遠でないのだ。
中国の社会構造は、専制主義のままである。次の発展段階である封建制はもちろん、資本主義も経験せずに共産主義という「2段階」を飛び越えている。それだけに、先進国から見た中国はざっと200~300年の時代ギャップを感じるのである。
中国は、その自覚もなく振る舞い、多くの摩擦を生んでいる。