fbpx

日本で報道されなかった2021年「中国テック業界」10大ニュース〜テック企業規制、洗脳神曲、セクハラ事件、中国版インスタのエロ過ぎ問題まで=牧野武文

第5位:小紅書のやりすぎ問題

小紅書(シャオホンシュー、RED)はインスタグラムによく似ていますが、その裏でECと結びついていて、バズる写真やムービーを投稿すると、それに紐づけた商品も売れ、投稿者は大きな利益を得られるという仕組みになっています。そのため、小紅書の網紅(ワンホン、ネットの人気者、インフルエンサー)たちは以前からいろいろとやりすぎるという批判を受け、炎上することがたびたびありました。日本の迷惑YouTuberに似たような問題です。それが今年はいつもの年にも増して多く、目立つことになりました。

今年の初めには、ある網紅がブラジャー姿でスノーボードをするというショートムービーを公開して話題になり、多くの投稿主が真似をしました。ブラジャーといっても下着のブラジャーではなく、ジムなどで使われるセパレートのトレーニングウェアのようなものです。「寒くはないのかな?」と心配にはなるものの、目に新しい、 なかなか新鮮な映像です。しかし、中国では下品だ、性的すぎると炎上をしました。

9月には「佛媛」スタイルが流行しました。これは寺院などの古く趣のある場所で女性が自撮りをするというものです。レトロな感じでスタイリッシュであることから他の投稿主も真似をするようになりました。すると、なぜか、深いスリットの入ったドレスや、レースのシースルースカートなど、セクシーな衣装を着る方向に走り始めたのです。

日本の感覚では、ポルノにはなりませんし、週刊誌のグラビアよりもおとなしい表現ですが、これが炎上しました。真面目に修行をする僧侶たちがいる寺院で、そんな格好をするとは何ごとかという批判です。

小紅書は20代、30代の女性利用者が多く、日本でいう「インスタ映え」に注目が集まります。美しい景色のスポットが、いったん小紅書で人気になると、その場所には大量の小紅書ユーザーが訪れ写真を撮っていき、後に大量のゴミが残されるということが社会問題にもなりました。

人気があるSNSだけに起こる問題ですが、今年はさすがに炎上が連続し、批判が高まりました。

第4位:滴滴のニューヨーク上場直後のアプリ配信停止事件

中国最大級のユニコーン企業と言われていたライドシェアの「滴滴」(ディディ)が、6月30日に米ニューヨーク証券取引市場に上場を果たしました。アリババ以来の大型上場となりました。

しかし、その5日後、滴滴のアプリが違法に個人情報を収集しているとして審査が入り、結局、アプリの配信が停止となりました。現在でも、配信停止は解けてなく、滴滴は上場廃止を考えなければならないところまで追い込まれています。

アプリの配信が停止になると、ダウンロードやアップグレードができないため、新規ユーザーを獲得すること、新サービスを始めることができません。すでにアプリをインストールしている人のみサービスを利用できます。

しかし、痛いのはミニプログラムです。ミニプログラムはアプリよりも利便性が高いので、アプリではなく、WeChatなどのミニプログラムから滴滴を利用する人が増えています。ミニプログラムは、開くときにアプリそのものを読み込むSaaSのような仕組みなので、アプリが配信停止になるとミニプログラムが使えなくなってしまうのです。事実上の営業停止にも近い処分です。

滴滴が天国から地獄へ落とされる酷い目にあった理由として、多くの中国メディアが指摘しているのがVIEスキームへの規制です。VIEとはVariable Interest Entities(変動持分事業体)のことです。

中国では、政策上、多くの産業で外資の参入を制限しています。自動車産業は制限類に指定され、外資は50%未満の株式しか保有することができません。そのため、トヨタは中国に進出をしていますが、広州汽車と合弁で「広汽豊田」という会社を設立しています。外資であるトヨタが中国に100%子会社をつくることはできないのです。国内産業を保護するというのがその理由です。

ネット企業は、情報の安全保障の問題(ネット企業の保有する情報が外国人に流れる)もあるので、外資の参入が完全に禁止される禁止類に指定されています。つまり、外資企業、海外のベンチャーキャピタルは中国のネット企業の株を持つことはできません。しかし、ソフトバンクは滴滴やアリババの株を保有しています。これはどういうことでしょうか。これを可能にしているのがVIEスキームです。

まず、ケイマンやバージン諸島などのタックスヘイブンにシェルカンパニーを設立します。これは実体のないペーパーカンパニーです。外資にはこのシェルカンパニーの株式を保有してもらうことで資金を調達します。

このシェルカンパニーは中国から見ると外資企業になるので、国内の事業会社の株式を保有することはできません。そこで、統治、利益などの契約を結び、事業会社が子会社と同様になるようにします。これで国内事業会社が、外資から資金調達をして、中国国内でビジネスを展開できるようになります。

ペーパーカンパニーやタックスヘイブンという言葉が出てくると、なにかとても怪しげなことをしているかのように見えますが、基本的には日本でもおなじみのホールディングカンパニー制度と同じです。ホールディングカンパニーは事業会社の株式を保有することで事業会社を統治しますが、VIEスキームでは契約により事業会社を統治します。

そのため、米国の法律上、VIEスキームは何の問題もなく、シェルカンパニーを米国証券市場に上場させることができます。

アリババを始め、中国の多くのテック企業がこのVIEスキームを採用し、米国証券市場に上場をしています。

ところが、中国国内でも違法ではないものの、合法と言える根拠もありません。法的整備がなされていないグレーゾーンになっています。もうみなさんよくご存知だと思いますが、このような時、中国政府は、そのグレーな状況が中国社会にとってメリットを与えている間は黙認をし、デメリットが大きくなると一気に規制を始めるという対応をします。

古くは山塞携帯電話(無免許製造携帯電話)、不動産、シャドーバンキングによる理財商品、スマホ決済、ネット消費者金融なども黙認の期間に大きく成長し、規制により正常化するという道をたどってきました。

日本人の感覚から見ると、黙認の時期は「めちゃくちゃ、でたらめ」に見え、規制の時期は「強権的、独裁的」に見えますが、政府の規制のタイミングは見事だとしか言いようがなく、いずれも(中国にとっては)ソフトランディングさせ、正常化をさせています。

中国でさまざまな経済問題が発生すると、そのたびに日本では「中国バブルが崩壊する。中国の終わりの始まり」と大げさに報道されますが、終わってみると、わりと小さな波乱で乗り切れているのは、よほど政府の規制に関する意思決定が正確で迅速なのではないかと思います。その意思決定プロセスは報道されませんし、窺い知ることすらできませんが、担当をしているチームは毎日が真剣勝負なのだと思います。

VIEスキームは、中国でも違法とは言えないものの、政府の「外資の参入規制を定めて、国内企業を保護し、国内企業が力をつけるとともにネガティブリストを小さくしていく」という産業促進策から見れば、抜け穴をつかれたようなもので、いずれ規制はしなければならない問題でした。

そのため、ここ数年で、アリババや百度、京東などのテック企業が、米国証券市場にも上場しながら香港証券市場にも二重上場をするという動きをしています。いつ規制が入って、米国証券市場から上場廃止をすることになっても、資金調達ができるように先手を打っているのです。

なぜ、政府はこの段階にきてVIEスキームの規制を始めたのでしょうか。いちばん大きな理由は中国の労働人口=消費者人口が減少に転じたことです。つまり、中国経済は高度成長から安定成長に切り替えなけれなりません。そのために、中国政府が定めた成長戦略から外れる動きを規制して、正常化を始めているのです。

この問題については、このメルマガの「vol.098:なぜ中国政府はテック企業の締め付けを強化するのか。公正な競争とVIEスキーム」で詳しくご紹介しています。また、滴滴の創業からの物語は「vol.028:MaaSにいちばん近い企業。滴滴出行の現在」でご紹介しています。

Next: 第3位:著名人の脱税事件/第2位:当たり前になった電気自動車

1 2 3 4 5 6 7
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー