第1位:テック企業が続々と独禁法違反で罰金へ
今年のテック業界のいちばんのニュースと言えば、やはりこれです。4月には、アリババが独禁法違反で2019年の営業収入の4%にあたる182.28億元(約3,000億円)が課せられました。これほど高額にはなっていませんが、テンセント、美団、ピンドードーなどテック企業のほとんどが独禁法違反を指摘され罰金を課せられています。
アリババが指摘されたのは「二選一」(二者択一、排他的契約の強要)行為です。自社のEC「タオバオ」の販売業者に対して、他のECに出品しないように求めたものです。他のECにも出品する業者は、検索順位を不利にするなど、さまざまな冷遇をしました。
もちろん、支配的地位を利用して圧力をかけた行為であり、公正な競争を阻害するものですが、このようなことはあからさまには行われないものの、どこの業界でも多かれ少なかれあることです。「だからいい」と擁護をしているのではなく、今までは黙認されてきたのに、ここにきて突然厳しく罰せられるようになったという点に注目をすべきです。これもやはり、中国の成長がシフトチェンジをしたことと大きな関係があります。
一言で言えば、アリババやテンセント、美団、ピンドードーなどが大きくなりすぎて、新しいビジネスが登場しても、その市場をつくってきたスタートアップ企業は競争に負け、「次のアリババ」になるチャンスを得ることができなくなっています。
例えば、社区団購は、事前注文により配送量が事前に確定するため、流通の需給を調整する仲卸が不要になり、物流が簡素化できることにより、生鮮食料品などを安価に提供できるというビジネスです。元々は農村などの地方で、小売店舗が少ないことを補うために生まれた生活協同組合のようなビジネスです。これが、コロナ禍により注目され、テック企業が続々と参入をしていきました。すると、それまで市場をゆっくりと育ててきた社区団購各社は、資本を持っているテック企業に敗退をして破綻をするところも現れるようになりました。結局、現在はアリババ系と美団系が市場を支配しそうな情勢です。
つまり、どんなビジネスであれ、手塩にかけて市場をつくっていっても、後から参入してきた大手テック企業に負けてしまうのです。
中国では、「劇場効果」と呼ばれるビジネス寓話がよく語られます。劇場で、1列目の観客が「もっとよくステージを見たい」と立ち上がります。すると2列目の観客は見えづらくなるので立ち上がります。3列目、4列目も同様で、最後には全員の観客が立ち上がることになります。結局、1列目の観客を除いて、見やすさは以前と変わりません。違いは、以前より疲れるということです。
よく言われる「大手テック企業叩きが始まった」ということではありません。大手だからこそ、定められたルールを厳格に守れということです。大手も中堅もスタートアップも同じルールで戦う公正な競争をする環境をつくろうとしています。
VIEスキームも同様です。国内法を厳格に守ろうと考える企業は、国内から苦労をして資金を調達しなければなりませんが、VIEスキームを採用する企業はやすやすと海外から大量の資金を調達して、それを背景に市場を独占していきます。それは公正な競争とは言えないと、中国政府は考えているのだと思います。
このような規制、正常化が進むと、大手テック企業の以前のような華々しい動きというのは少なくなるでしょう。しかし、一方で、中堅企業やスタートアップ企業の成長空間が生まれます。日本のメディアは大手テック企業の動きが活発でなくなることを捉えて「中国テックバブルの終焉」というような切り口で報道をすることも増えると思いますが、その時に、大手ではない中堅企業、新興企業がどのような動きをしているかを同時にチェックしておくことが大切です。そこから「次のアリババ」「次のバイトダンス」が生まれてくるかもしれません。
来年は、このメルマガでも、大手だけでなく、そのような中堅、新興の動きもできるだけお伝えしていこうと思っています。
コロナ一色だった1年が終わろうとしています。2022年こそは、完全終息をして、晴れやかな年になることを願ってやみません。1年間、つたないメルマガをお読みいただきありがとうございます。来年もまた中国テック業界の動向をお伝えしていきたいと思っております。
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『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年12月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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