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「連続利上げ」でもインフレは止まらない?歪んだ金融政策の巻き戻しと遠いサプライチェーンの正常化=脇田栄一

インフレと完全雇用のトレードオフについて言及していたバイデンだが、政権の意向もありインフレ軟化に意識を高める姿勢をみせている。簡素にいえば、連続利上げを念頭にいれている。しかし、供給制約からのボトルネックインフレにオーソドックスな利上げが効果があるといえば、それは甚だ疑問である。効果が無かった場合には、連続利上げが経済自体を安定化させるどころか不況を招く結果となることだろう。

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プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。

「連続利上げ」を念頭に入れるバイデン政権

雇用に限っていえば、米2月2日(水)に公表された1月ADP全米雇用報告での民間部門雇用者数は30.1万人減と、前月12月の77.6万人増から極端な減速をみせた。BLS公表の非農業部門雇用者数をみても、昨年10月の64.8万人増から極端な減速がつづき12月は19.9万人で、明日2月4日(金)の結果を迎える。

月ごとの落差はあれどもトレンドとしては同じで、とくに1月はここのところお伝えしたように連邦最高裁がバイデン政権のワクチンマンデート(ワクチン強制接種)に「NO(ノー)」を突きつけた(米13日)。

※参考:バイデン政権のワクチンマンデートにストップ、就業環境に好転の兆し – ニューノーマルの理(2021年1月18日配信)

ワクチン強制接種が無効判決となったことで、バイデン政権は上記ワクチンマンデートを公式に撤回せざるを得なくなった(例のごとく日本国内ではほとんど報道されないが、政権にとっては大恥をかいた挙句に大打撃である)。

米大企業の多くが、いったんはワクチン未接種の意向を示した職員に解雇通知を出していたが、連邦最高裁の判決と、バイデン政権のワクチンマンデートの公式撤回を受けて多くの企業は方針を撤回し、従業員に復職を呼びかけるという恥じ入る措置を採ることになっている。人々にはさまざまな感情が入り乱れ、高齢化による生産年齢人口の減少とともに雇用情勢はかなり揺れている状況に陥った。

インフレと完全雇用のトレードオフについて言及していたバイデンだが、政権の意向もありインフレ軟化に意識を高める姿勢をみせている。今までの重複だが、簡素にいえば連続利上げを念頭にいれている。

いまのインフレに「利上げ」は効くのか?

しかしまた、何度も繰り返しているように供給制約からのボトルネックインフレにオーソドックスな利上げが効果があるといえば、それは甚だ疑問であり、効果が無かった場合には連続利上げが経済自体を安定化させるどころか不況を招く結果となることだろう。現時点でこのような議論(連続利上げがインフレ抑制に効果なし)をみたことは無い。

たとえば、先日公表のISM公表の製造業PMIを例にだすとわかりやすい。

サプライヤーの納品実績の改善はみられたものの(12月の64.9%から1月は64.6%)、11月からの、目に見えての供給制約緩和から大幅に鈍る形となった。結果として物価指数は76.1%で大幅上昇となっている。簡素にいえば、納入の遅延は再度停滞し、高インフレが継続する兆候が明確に出ている。

ISMがリリースしているように、今回の結果の主要因はオミクロンにまつわる欠勤率と離職率となっている。つまり先述したようにバイデンのワクチンマンデートによってこのような事態が継続していた。がしかし、連邦裁判所の無効判決によって、これら供給制約の根本要因は幾分改善される可能性がある、ということになる。よって1月の落ち込みは、判決を考えた場合、一時的な参考値として捉えておくべきだろう(企業によって、今後方針は変わってくる)。

日本国内でもよくいわれることだが、米国の弱小政権においても(軽症におわるといわれる)感染症と大きすぎる経済損失を同列に扱っており、中間材不足に輸送困難、現場の労働力不足というサプライチェーンの問題を引き起こしている。結果として、1月下旬にみられた株式の乱高下によって、企業は資金調達に困難が生じるのは明白で乱高下が継続すればするほど、悪循環に陥ってしまう。

Next: 処方箋を誤ると事態はより深刻に。利上げが“毒”になる可能性

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