株価に岸田サイクル?
一部に岸田政権による持続的賃上げで株価上昇サイクルが起きるとの期待が見られます。
賃上げによる株価への影響は、マクロとミクロに分けて考えられます。マクロ的には分配が変わるだけで、賃上げが即日本全体の所得増加になるわけではありません。それでも、企業が利益余剰分を「内部留保」に蓄えて使わず、全体として需要が抑制されてきた分が賃金に還元されることで需要が高まる面があります。これは株価にプラスです。
見方を変えれば、労働分配率が低下して消費が減った分を企業が投資などでカバーしきれなかったとすれば、消費性向の高い消費者に資金が回ることで、全体としての需要が高まる可能性があることです。極端な分配率の低下は、却って資金効率を悪くしていた可能性があり、これが是正されることで、マクロの需要増、所得増の道が開けます。
ミクロ的には分配が変わるので、短期的には企業収益が抑制され、企業向け需要が減り、反面消費関連市場が潤います。株価もその分、消費関連、個人向けサービス関連に期待が高まり、企業向けサービス、投資財市場が抑制されます。
しかし、歪んだ労働分配率が是正されて全体の需要が高まれば、企業部門の生産、投資にも還元され、中長期的には企業部門も潤います。
賃上げ力に格差
こうした産業界の動きも一様ではありません。
利益剰余金を内部留保に積み上げられる余裕のある企業もあれば、仕入れコスト高で経営が圧迫され、賃上げどころでない企業も少なくありません。実際、異次元緩和で企業倒産は減ってきたのですが、昨年から仕入れコスト高による「物価高倒産」が増えています。
こうした状況では、概して大企業は賃上げの余裕がある一方、中小零細企業では賃上げ余力が小さいと見られます。
それでも人手不足は中小企業ほど深刻で、人手を確保するために賃金を引き上げざるを得ないところも少なくありません。また同業他社が賃上げを行えば、横へ倣いの対応を余儀なくされる業界も多く、つまりトヨタが上げればホンダも上げるという具合です。
それでも企業体力の差から、賃上げ余力にも差が出て、大幅な賃上げができるところと、できないところとが出ざるを得ません。
新たな所得格差
その結果、賃上げで新たな所得格差が生じかねません。
大企業労働者と中小零細企業労働者の格差が広がり、さらにマクロ経済スライドで年金額が調整され、実質減額される年金生活者との格差も広がります。
新しい資本主義を掲げ、分配を重視すると言った岸田政権にとっては、大きな試練となります。