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なぜリストラ進む米国で自主退職者が急増?労働者の39%がフリーランスを選ぶ事情。「大辞職」の波は日本にも=高島康司

従業員の自主的な退職ラッシュ「大辞職」

しかし、このようなリストラの波を見るととても奇妙な感じがする。アメリカは人手不足で、景気は比較的に好調ではかったのか?賃金の伸びが続いていることから、明らかに人手不足は続いていると見てよい。だとするなら、この人手不足下のリストラとはどういうことなのか?

これは、アメリカ経済が産業分野によって状況がまちまちのいわばまだら模様の状況にあることの反映だろう。利上げや実質賃金の低下、そしてインフレの影響をもろに受け景気が一気に下降している分野がある一方、太陽光発電、電気自動車、無人航空機、環境関連産業、観光業、ホテル、そしてAIを中心とした最先端ITの関連分野はこうした指標の悪化に関係なく成長している。

こうした状況であれば、リストラされた人々は成長している分野で仕事が見つかるので、労働力の需給はいずれ調整されて、人手不足も解消に向かうはずだという予測も成り立つかもしれない。

しかしながら、こうした楽観的な見通しが成り立たなくなるような事態が、いまアメリカで進行しているのだ。それが、「大辞職(The Great Resignation)」と呼ばれる現象だ。もしかしたらこれは、アメリカでは史上始めての現象かもしれない。

2022年12月13日、世界的な仕事紹介業の「Upwork」は、アメリカの独立労働力に関する最も包括的な調査「Freelance Forward: 2022」の結果を発表した。「Upwork」の調査によると、過去12カ月間に6,000万人の米国人が自主的に退職し、フリーランスになったという。これはアメリカの全労働力全体の39%に相当する。

これは、「大辞職」や「静かに辞める」といったムーブメントの高まりの結果だ。退職しているのはスキルを持ち、フリーランスでもやって行ける人々がほとんどだ。そういう人々の間ではフリーランスの人気が高まり続けており、9時から5時まで、オフィス内で、雇用主は1人というモデルは、すべての人が望むものではなくなっている。

この「大辞職」のトレンドの結果、スキルを持つ人々がフリーランス化しているので、アメリカ経済に占めるフリーランスの所得の割合も増えている。2022年にフリーランサーは年間1兆3,500億ドルの収益をもたらしてしており、2021年よりも500億ドルも多くなっている。

退職してフリーランスになるのが一番多いのが、20代前半の「Z世代」、ならびに20代後半から30代初めの「ミレニアル世代」だ。2022年には、スキルを持つ「Z世代」プロフェッショナル全体の43%、「ミレニアル世代」プロフェッショナル全体の46%がフリーランスになっている。

またフリーランサーの半数以上が知識や情報の処理にかかわるナレッジサービスを提供している。2022年には、全フリーランサーの51%、約3,100万人が、コンピュータープログラミング、マーケティング、IT、ビジネスコンサルティングなどのナレッジサービスをさまざまな産業分野で提供している。そして、退職した69%のフリーランサーが将来の自分の稼ぎについて楽観的な見通しを持っている。

パンデミックで始まった職場放棄

すでにアメリカの全労働力人口の39%がフリーランスになっているということは、この「大辞職」の波がいかの大きいのかを示している。この動きが始まったのはコロナのパンデミックがきっかけだった。

2021年初頭から従業員が一斉に自主的に退職する動きが始まり、いまも続いているのだ。退職の理由として、生活費の上昇に伴う賃金の低迷、職場におけるキャリアアップの機会の制限、敵対的な職場環境、福利厚生の欠如、柔軟性に欠けるリモートワーク方針、長く続く仕事への不満などが挙げられる。辞める傾向が強いのは接客業、医療、教育分野の労働者だ。

だが、やはり退職理由でもっとも多いのは、職場への不満である。「ここが嫌なら他で働けばいい」というような態度をとる企業、社員を人間として扱わず、使い捨ての品目として扱っている企業が「大辞職」の影響をもっとも受けている。

過去に最も苦しんだのは現場の従業員だったが、コロナのパンデミック以降、パワーバランスはますます従業員に傾いている。いま続いている「大辞職」は一連の大きな修正の可能性の最初のものであり、企業がそれに対処しないと、必要な人材の確保に失敗し、企業の持続可能性と成長が危うくなるような状況にもなる。

これは、あらゆる階層の労働者が、より大きな力と影響力を持つようになったことを意味する。パンデミック後、多くの従業員が「こんな扱いを受けたくない、この仕事よりフリーランスの方がましだ!」と言うようになった。パンデミック以前は、失業の恐怖から嫌な仕事でもなんとか我慢していた。しかしパンデミックで政府から支給された支援金のおかげで一定期間休職できたので、苦悩と恐怖に苛まれた職場に復帰することを拒否するようになった。そして、労働者の多くが職場復帰を拒否し、フリーランスを選ぶようになったのだ。

これからは、自分自身や会社にとって意義のある仕事をしたい、働きたいと思えるような文化や風土のある職場を提供するために努力をしない企業は淘汰される流れだ。

Next: 企業に勤めるメリットが希薄化?フリーランスができる分野は拡大

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