ウクライナ軍の損失
これが、「Open Source Intelligence」を駆使したウクライナの戦況の概略である。詳細な戦況ではないが、大体の状況がよく分かるはずだ。日本や欧米の主要メディアが喧伝するイメージとは大きく異なり、ウクライナ軍の反転攻勢は成功してはいない。失敗している。
それとともに、ウクライナ軍の被害も大きくなっている。ウクライナ国防省は明確な死傷者数を発表していない。また、BBCを始め多くの西側メディアがロシア、ウクライナ両軍の死傷者数の見積もりを出しているが、メディアによって数値は大きく異なっている。また、西側メディアはウクライナ軍の反転攻勢の成功を喧伝しているので、死傷者数に関してもかなりのバイアスがかかっていると思われるので信用できない。
一方、「Open Source Intelligence」を駆使する分析者のサイトを見ると、おおよその死傷者数のイメージはつかめる。ウクライナ軍は反転攻勢に、3,500人程度で構成される大隊を12個投入している。1大隊あたりの平均死傷者数は、毎日50人程度だろうと見られている。反転攻勢が始まって100日程度だから、ウクライナ軍の死傷者数は大体6万人程度になる。
「Open Source Intelligence」から把握できるこの数値を見ると、以外にもロシア国防省が9月3日に発表した公式の数値にかなり近いことが分かる。ショイグ国防相は、反攻開始以来、ウクライナ軍は6万6,000人以上の軍人と7,600以上の武器を失ったと述べた。
さらに、ロシアの防空システムは、この1ヶ月間で159発のHIMARSロケット、1,000機以上のドローン、13発の巡航ミサイルを撃墜し、34の司令部を攻撃したという。
ショイグ国防相はまた、ウクライナ軍は3ヶ月間の反攻で目標を達成できなかったと主張し、次のように発言した。
「キエフ政権は、甚大な損害を被ったにもかかわらず、すでに3カ月もいわゆる反攻を試みている。ウクライナの軍隊は、どの方面においても目標を達成することができなかった」
不気味な情報
おそらくこれが現実なのではないかと思う。しかし、6万6,000人という死傷者数は6月4日から始まった反転攻勢におけるウクライナ軍の死傷者数だ。では、2022年2月24日から始まったウクライナ戦争全体の死傷者数はどうなのだろうか?これにもあまりに多くの見積もりがあり、それぞれ数値が大きく異なっているので、一概には言えない。
しかし、そうしたとき、ちょっと不気味な数値が出回った。ウクライナの携帯電話事業者大手の「キエフスター」が、キャンペーンを呼びかける動画を作成し、SNSにアップした。その動画には、「永遠の眠りについたヒーローの電話番号に「ありがとう」という言葉を添えてテキストメッセージを送ろう」とあり、その数が40万人であると書かれていた。
これはウクライナの死者数が40万人であるとの憶測を呼び、ネットで拡散した。拡散の勢いに驚いた「キエフスター」は、この動画を急いで削除した。「ロイター」などの西側のメディアは、ファクトチェックを行いこれがフェイクニュースであると注意したが、そのように考えない分析者も多かった。「Open Source Intelligence」を活用する分析者の中には、ウクライナ軍の死傷者数は30万人を越えていてもおかしくないと見る分析者も多かったので、この40万人という数についても違和感がないという意見もある。