中国EVに日本の圧力
中国期待のEVは、日本が全固体電池でリーダーシップを握ると「後塵を拝する」形になる。しかも、国内市場は飽和状態で縮小傾向になれば、中国の代表的輸出製品がなくなる。それは、中国経済を牽引する産業消失にもなるのだ。
中国は、こうして不動産バブルの崩壊で住宅と自動車の2つの「リーディング・インダストリー」を失う。すべてが、バブルのもたらした「一夜の夢」であったとみるべきだろう。
習氏は、こうした構造変化についてどこまで正確に認識しているか不明である。中国経済の減速が目立つとともに、習氏の猜疑心だけが高まっている。中国エリート層の造反を懸念しているとみられるのだ。そこで、「反スパイ法」を強化して、国内外を同時に取り締るのが最適という判断から、外国企業の社員拘束に力を入れている。これによって、国内エリートへの「見せしめ」にする狙いとされている。
これには前段がある。中国当局は2021年以降、公務員や国有企業職員の私的な海外旅行を制限している。同時に、海外との個人的なつながりについても調査を進めているのだ。外部との接触遮断を狙っている。海外旅行の禁止、海外旅行の頻度・期間の制限強化、承認手続きの厳格化といった措置が導入されている。
中国の公務員や国有企業職員は、中国に関する高度の情報に接触している。それだけに、ここからの情報漏洩を遮断すべく、「反スパイ法」の名前で外国企業への取締りを行っているのだ。中国エリート層が、中国に不利な情報を漏洩し、造反を防ぐ目的である。中国は、経済の構造改革でなく情報漏洩遮断という受け身でしか対応しないのだ。こういう点に、限りない不安がよぎるのだ。
急減速下で2つの悲劇
中国は、改革と無縁の政策を続けて行けば、経済成長率はどこまで低下するか。これが、次のポイントになる。IMF(国際通貨基金)は、中国経済についてもっとも厳しい見方に立っている。10月の最新経済成長率見通しでは、次のようになった。
2023年のGDP成長率は、従来予測の5.2%を5.0%へ下放修正した。24年も4.5%を4.2%へと下方修正。今後4年間の平均成長率予測について、1年前には4.6%であったが、今回は4%に引き下げたのだ。これは、中国経済が一段と成長余力を失ってきたことを示唆している。習氏に対して、政策の見直しを求めている。成長率低下によって、過剰債務からの脱出が極めて難しくなることを示しているのである。
現実の中国経済は、泥沼に入り込んでいるが、これを否定する見方もあるので取り上げたい。「中国が4%成長するだけで、新たに生まれる需要はタイ一国を大きく上回り台湾に匹敵する規模になる」というのだ。確かに、絶対値で見ればその通りだが、対GDP比で300%を優に超える債務を抱えている中国経済には、4%成長でも債務返済が困難であることに変わりはない。事態の深刻さは増しているのだ。しかも、中国の人口動態は次に示すように急速に「日本化」している。
高齢化社会 高齢社会 超高齢社会
中国 2001年 2021年 2034年
日本 1970年 1994年 2007年
中国は、2034年に超高齢社会(65歳以上の人口比21%以上)へ移行する。だが、中国の年金財源(企業従業員基本年金)は、不運にも35年に枯渇すると予測されている。これは、政府シンクタンクの中国社会科学院が発表したものだ。公式の推計である。