同意なきTOBは増えるのか?
従来、日本では今回の第一生命のような会社側の同意を得ないままTOBを実施するケースは少なかったし、また他社がTOBを行っているのに対して、対抗してTOBを実施するという事例も少なかった。
このような日本のM&Aの慣習は近年大きく変わりつつある。
2020年にはDCMホールディングスが買収することで合意していた島忠に対して、ニトリが対抗して価格提示を行い、結局島忠はニトリの子会社となった。
また2023年にはTAKISAWAに対して、ニデックが会社側の同意がない状態で買収提案を行い、結局TOBに対してTAKISAWAは賛同表明することとなり、TAKISAWAはニデックの子会社となった。
ニトリもニデックもオーナー色がかなり強い会社で、少し無理なことでもオーナーの強い思いによって押し通せるということ面があったが、第一生命はオーナー系ではない。
第一生命のようなオーナー系ではない会社でも、今回のベネワンに対するようなM&Aも実施していかなければ、今後は企業価値を上げることはできないということだろう。
上場企業は株主の利益を最大化しなければいけない
もう1つの理由としては、日本のM&AやTOBに対するルールが整えられつつあり、企業は株主をより意識して経営しなくてはいけなくなっているという背景がある。
経済産業省は今年の8月に「企業買収における行動指針 ─企業価値の向上と株主利益の確保に向けて─」というM&AやTOBに対しての指針を発表している。
同発表の中では、企業価値向上につながる提案を合理的な理由なく拒んではならないという内容が盛り込まれている。
簡単に言うと、企業価値を上げる提案であるか、株主にとって最も有益な提案であるかを吟味して、企業価値を上げる提案や株主にとって最も有益な提案であれば、経営陣の好き嫌いで拒絶してはいけないということである(その吟味には社外取締役やアドバイザーなどの第三者の意見も取り入れるべきとされている)。
このような明確なルールが提示されたことで、買収者としては動きやすくなったということである。