長期的に薄れる投資マネーの影響
もうひとつ、「株を買うことによって株価が押し上げられる」と書いたのだが、長期的にみるとこちらの影響も実はあやしい。
一般的に商品の値段は需要(買いたい量)と供給(売りたい量)によって決まるはずだから、株式投資する人が増えれば価格はどんどん上がりそうだ。しかし、商品と株式投資はまったくの別物だ。商品は消費するために購入されるが、株は消費されることはない。買われた株は、いつかは売られるのだ。
たとえば、ある株を買いたい人が10人あらわれて、1,000円だった株価がぐんぐん上昇して2,000円になったとしよう。2,000円はこの企業の株価の最高値である。この時点で、この10人はみんな喜んでいる。誰にとっても含み益があるという状況だ。
しかし、この10人が利益を確定するには、誰かに2,000円で売らないといけない。買いたい人が現れなければ、価格は下落するし、2,000円でも買いたいという人が10人以上現れれば、株価はさらに上昇する。
買いたい人が増え続けている間は上昇するが、いつかは買いたい人は現れなくなり、バブルがはじける。一時的には企業の実力以上に株価が上昇することはあっても、長期的には元に戻ると考えられる。
長期的に株価を左右するのは、株式投資をする人が増えることではなく、企業の業績が伸びることだ。「バブル崩壊後の最高値更新」という言葉を聞いても、「自分だけ乗り遅れてしまったんじゃないのか」とあわてて、株を買う必要はないのだ。
株を1,000円で買って2,000円で売れば、たしかにもうかる。しかし、その裏側には、1,000円で売らされて2,000円で買わされている人が必ず存在している。煽られて2,000円で買わされないように、まずは落ち着いたほうがいい。
NISAは投資で儲けた人が課税されないための制度だ。焦って損をするなら元も子もない。小説の中で、投資銀行で働く七海が株価の上昇について語るシーンがある。
私も実感しています。そういうお客さんになめられないように、あえて難しい言葉を使うことがあります」
「なめられないように……ですか?」
そこに込められた、ただならぬ感情が、優斗にも伝わってきた。
「そうよ。私みたいな若い女性って、日本のお客さんには軽くみられちゃうのよね。だから、株価上昇の理由とか聞かれたら、『グローバルな過剰流動性相場』とか、わざと難しい言い回しで答えるの」
「僕には全然わかんないですけど」
優斗は頭をかいた。
「それでいいのよ。難しい単語を覚えただけで、多くの大人は満足するのよ。今の説明って、
『世界でお金が余っているからです』と言っているだけなのにね」
引用:『きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』38ページより
「彼らは、難しい単語が知恵の実とでも思っているんやろな。過剰流動性という言葉を覚えれば理解した気になる。せやけど、知恵の実を食べて賢くなるわけやない。知恵は育てるもんや。重要なのは、自分で調べて、自分の言葉で深く考えることやで」
引用:『きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』39ページより
企業の資金需要は増えるのか?
「投資にお金が流れれば、株価が上昇して、我々の生活が豊かになる」と声高に叫ぶ人がいるが、株価がどのように影響しているかを考えないといけない。みんなが株式投資にお金を流したところで、このままだと企業の業績向上にはつながらない。
株に流れるお金が有効に使われるには、企業の資金需要が増える必要がある。そのお金で新しい商品やサービスの研究開発が行われ、世の中がさらに便利になるから経済は成長する。
小難しい経済の話を鵜呑みにするのではなく、それが人々の暮らしや行動にどのように影響しているのかを考えると、市場の動きだけでなく社会の動きも見えてくる。 ※本記事は、田内学氏のメルマガ『金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」』2024年1月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。 ※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込1,100円)。
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『
金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」
金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」
』(2024年1月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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