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日経平均バブル超えの裏に低賃金で苦しむ労働者たちの犠牲。賃上げと株高の両立が困難な理由=斎藤満

家計の犠牲、どこまで耐えられるのか

その分、家計にしわ寄せがきていますが、かつてのコロナ禍での消費抑制から解放された「ペントアップ需要」が消費を拡大させたため、家計部門の疲弊は目立たないように見えますが、実際には日銀の「生活意識に関するアンケート調査」などに苦しい状況が示されています。

昨年12月調査の結果を見てみましょう。

まず家計が実感する物価上昇が、公表の物価統計と大きく異なります。アンケートではこの1年の物価上昇が平均で16.1%、中央値で10.0%となっています。日銀が物価の尺度にしている生鮮食品を除いた「コア」が前年比2%台にあるのと大きく異なります。家計が頻繁に目にする食料品価格は6~8%上昇し、その印象が強いほか、政府統計は機能向上や容量増などを「値下げ」扱いし、また固定品目を調査対象にするめ、新製品値上げがもれます。

このほか、政府統計では1パック、1袋ごとに価格を調査するものがあり、その容量が1,000ccから900ccに減ったり、1袋に入る個数が10個から8個に減って実質値上げしたもの、パンの大きさが小さくなって実質値上げしているものがもれてしまいます。現実の物価上昇は、家計の実感では10%以上で、実質賃金の減少以上に苦しくなっています。

実際、政府日銀は景気を緩やかな回復と評価していますが、家計の実感は、この1年で「良くなった」とする人は9.3%で3か月前の12.5%から低下、逆に「悪くなった」と感じる人の割合は3か月前の55.0%から58.9%に増えています。

そして物価上昇を「好ましい」とする人が3.6%に対して、「困ったもの」とする人が84.5%に達しています。つまり、家計を犠牲にしたうえでの企業の利益拡大で、家計がこれに耐え、我慢できる間はよいとしても、いずれ耐えられなくなる日が来ます。

実質賃金の減少は、厚労省の「毎月勤労統計」では昨年2.5%でしたが、個人の実感インフレ率を中央値の10%とすれば、実際には8%以上の減少となり、2,000兆円を超えた家計の金融資産も1年で200兆円も目減りしたことになります。

ペントアップ需要もあって、家計は旅行や外食で消費を増やしていますが、一方で実質購買力の減少を受けて節約も余儀なくされています。総省の12月の「家計調査」によると、葬儀費用や寄付金を減らし、これらだけで消費全体を1%近く押し下げています。

賃金物価の好循環は容易でない

こうした事態を打開するため、政府や財界は24年度に積極的な賃上げを実現し、賃金物価の好循環とともに、実質賃金のプラス化を目指すと言っています。

一見すると美しい絵に見えますが、これは賃金物価の悪循環に陥るか、労働者が分け前を取り戻すことで企業利益を圧迫し、株価を下げるリスクがあります。

企業が法人税減税を利用して賃上げをする分は、法人税収が減る分、いずれ個人が所得税、社会保険料負担増などでツケを払うリスクがあり、実質的な賃上げ効果を減殺する面があります。

また賃上げした分を企業がまた価格転嫁すれば、それだけ物価が上がり、賃金物価の悪循環となり、実質賃金は増えません。

Next: 賃上げか、株高か。「二者択一」を避ける唯一の方法は…?

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